オムツをベッドサイドに置くということ(奥が深い環境整備)

新人看護師・看護学生にもできる優しい援助
実は奥が深い環境整備。侮っていませんか?

看護学校で一番はじめに習う技術が環境整備。患者さんのベッド周りをきれいに整理整頓して、環境清拭用クロスで拭きとって、リネン類を整えて。患者さんの私物をもとの位置に戻したら終了。ナースコールのセッティングも忘れずに。環境整備が終了したことを患者さんに告げて、つぎの部屋へ・・・。

流れ作業のように次から次へとこなしているように見える看護技術かもしれません。でも、実はすごく奥が深いのです。

患者さんの尊厳を意識した環境整備をしていますか?

エピソード:オムツをベッドサイドに置くということ

看護教員になってから、私は、患者さんのベッドサイドにオムツが置いてあるのを見ると、看護師をしていた時の自分の行動を思い出し、なんともせつない気持ちになります。

私が看護師として病棟で働いていた頃も、患者さんのベッドサイドにオムツが置いてあるのはよく見る光景でしたし、嫌な気持ちになることもありませんでした。寝たきりの患者さんの中には失禁をする方もおり、定期的にオムツ交換をする必要がありました。手際よく援助を行うためにも、取り出しやすい場所にオムツやおしり拭きを置いておくのが常でした。また、オムツの残りが少なくなると、いつ来るか分からないご家族に向けて、オムツの補充をお願いするメモをわかりやすく残しておくこともありました。

看護学校の教員となり、基礎看護技術を学生に教えるようになってから、私自身、“患者さんをどのような存在だととらえているのだろう”と考えるようになりました。

きっかけは、初めて病棟実習をする1年生を指導した時のことです。寝たきりの患者さんのところに学生と一緒に行くと、患者さんのベッドの脇にオムツが置いてありました。学生は、

失禁している患者さんなのですね

と、いいました。オムツが目に入ったから、“失禁している患者さん”だと素直に思ったのだと思います。

初めての実習で出会った患者さんに対して、“失禁している患者さん”と学生に捉えさせてしまったことが、私はなんとも切なく、悲しく感じたのです。学生は、看護を学び始めたばかりで、看護師として、医療者としての考え方はまだまだできていません。言い方は良くないと思いますが、普通の、とてもやさしいお姉さんです。その普通の感覚で患者さんのベッドサイドに立った時、目に入ったのがオムツで、“失禁している患者さん”だったのでしょう。

私は内心、しまった!とも思いました。学校では、看護の対象である人間を、“一人の生活者”として捉えましょうと教えていたからです。それが、オムツがそこにあるというだけで、“一人の生活者”ではなく、“失禁している患者さん”という捉え方になってしまったのです。私は、学生にその寝たきりの患者さんを、“野菜作りの上手な、お孫さんに慕われている頑張り屋のおばあちゃん”と捉えてほしかったのです。今は寝たきりになってしまったけれど、リハビリを頑張っています。お孫さんの話をするとにっこり笑ってくれます。1人の人として全体的にとらえてほしい。今までのその患者さんの生き方を含め、生活者としてとらえてほしいという願いが私にはありました。

看護師として働いていた時には考えもしませんでしたが、ベッドサイドにオムツが置いてあるというだけで、こんなにも強い先入観を学生に持たせてしまうとは。その患者さんの“人としての尊厳”が簡単に損なわれてしまうということに愕然としました。私は、自分の親に対して、“失禁している患者さん”と言われたら、激しく怒ると思います。「私の親は“失禁している患者”じゃありません。○○という名前の尊重されるべき1人の人間です。」と、今なら言うのではないかと思うのです。

このオムツ事件があってから、私は学生にこのように考えてもらうようになりました。

教員にこ
教員にこ

オムツは患者さんにとっての “下着”だよね。自分の下着が他者から見えるところに置きっぱなしになっていたら、恥ずかしいよね。

友達があなたの家に遊びに来たとき、あなたの下着が部屋の中に干しっぱなしになっていたらどうする?すぐに見えないところに隠したり、しまったりするよね?患者さんも、恥ずかしい気持ちになるんじゃないかな。

もしあなたが事故で寝たきりになってしまって、仕方なくオムツを使っていたとする。友達がお見舞いに来た時に、オムツが置いてあったらどんな気持ちになるかな?

まとめ

看護師として働いていた私は、患者さんを一人の人として尊重して関わっていたつもりでしたが、患者さんの尊厳を守れていなかったのだと振り返りました。学生に看護を教えるなかで、気づくことができました。

環境整備とは、患者さんの尊厳を守る援助でもあったのだなと考えるようになりました。

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