看護問題 例1 日常生活行動の拡大に伴う心負荷の増大により心拍出量減少から合併症を招く危険性がある。
心筋梗塞後は、心筋の壊死によって心機能が低下するため、洗面、排泄、食事、清潔、起居動作などの日常生活行動や、心理的ストレスによって心負荷が増大し、合併症が出現する危険性があります。
Aさん自身が許可された安静度の範囲内の身体活動により療養生活を送ることができるよう援助し、また安静度が拡大された際には発作症状の出現やバイタルサインの変動、自覚症状の有無に留意し、観察することが必要です。
看護目標(期待される結果)
- 長期目標:心筋梗塞後の合併症が出現せず、心機能の回復の程度に応じた日常生活行動の再獲得ができる。 (評価予定日:退院日)
- 短期目標1:指示された安静度の範囲内での身体活動を守ることができる。(評価予定日:入院10日目)
- 短期目標2:心負荷の要因となる生活行動、身体活動について理解し、心負荷の回避や調整をしながら行動をとることができる。(評価予定日:入院10日目)
看護計画
観察計画(OP)
- バイタルサイン(体温、血圧、脈拍数、呼吸数、SpO2)
- 呼吸パターン、呼吸困難・息切れの有無や程度
- 胸部聴診所見(肺野の湿性ラ音、心膜摩擦音、心逆流音)
- 胸痛・胸部圧迫間の有無、動悸の有無
- 食欲不振の有無
- 便秘の有無
- 水分出納(飲水量、尿量、体重の変化)
- 不眠や不安感、苦痛の程度
- 表情や言動、その変化
- 安静度拡大時のバイタルサイン、自覚症状の有無
- モニター心電図検査所見
- 心電図検査、胸部X線検査、血液検査、心エコー検査所見
援助計画(CP)
- 指示された安静度での身体活動が守られるよう、必要に応じ日常生活上の援助を行う。
- 日常生活の援助を行う際は、二重負荷(活動を2つ以上同時に、または連続的に行う)とならないよう工夫する。
- 身体活動拡大時には、バイタルサインや自覚症状を確認し、異常の早期発見に努める。
- バイタルサインや自覚症状の変化を、Aさん自身が客観的にとらえられるよう援助する。
- 療養上、Aさんが体験している思いや不安に耳を傾ける。
- 活動中に自覚症状が出現した際は、以下の流れで迅速に対応する。
・直ちに患者を休ませる。 ・症状の確認(いつから、どのような症状が、何をしていた時に出現したか。どのくらい続いているのか) ・バイタルサイン測定、12誘導心電図検査の実施 ・医師への報告 ・指示に基づき、ニトログリセリン舌下錠や亜硝酸薬のスプレーを使用し、自覚症状、バイタルサイン 12誘導心電図検査所見の変化の観察を行う。
教育計画(EP)
- 安静度の必要性について説明する。
- 安静度および身体活動の許可範囲について具体的に説明する。
- 身体活動の二重負荷について説明し、回避方法を一緒に考える。
- 自覚症状が出現した際は、直ちに活動を休止し、対処方法(ニトログリセリンの舌下錠の使用、受診、症状が持続するようであれば救急車の要請)を取れるよう説明する。
実施・評価(例)
Aさんから「自覚症状がなくても、心臓に負担がかかってるんだね」、「これからは心臓のことを考えて行動しなくちゃいけないね」と、自信の状態に理解を示す発言があり、指示された安静度の範囲内で日常生活を送るよう、自ら調整できていた。
本日(入院10日目)より安静度は“病棟内自由”となったが、今後は退院後の生活を見据え、心負荷への影響を考慮しながら日常生活行動の自立度が上がるよう支援していく。
評価日:治療10日目
看護問題 例2 発症時の体験による恐怖感から、睡眠パターンの変調がある。
発症時の激しい胸痛や集中治療室での厳重監視下の治療による危機的体験は、心理面に影響を及ぼします。恐怖感や不眠は、交感神経を刺激して血圧や脈拍の上昇を招くため、心負荷の増大につながります。このため、Aさんの発症時の体験や再発への恐怖感に対する精神的援助を行い、十分に睡眠をとれるようにすることが重要です。
看護目標(期待される結果)
- 長期目標:夜間に十分な睡眠がとれる。 (評価予定日:退院日)
- 短期目標1:発症時の体験について受容できるようになる。(評価予定日:治療15日目)
- 短期目標2:今回の発症までの経過を振り返り、対処行動をとることの重要性を認識できるようになる。(評価予定日:治療15日目)
看護計画
観察計画(OP)
- 睡眠に関する発言
- 入眠状況、睡眠時間、熟眠状態
- 発症前・発症時の症状に対し、自身がとってきた対処行動に関する発言
援助計画(CP)
- 病室の環境調整(温度、湿度、照度、音などの室内の環境調整と寝具の調整)を行う。
- 発症時の体験や、突然の入院となったことに対するAさんの思いを傾聴する。
- 就寝前のリラクセーション(呼吸法、自律訓練法)を行う。
- 恐怖の程度によっては、必要に応じ臨床心理士と面談できるように調整する。
教育計画(EP)
- 今回は、これまでとの症状の違いを察知し受診行動がとれたために命を取り留められたということを認識できるよう説明する。
- 再発予防に向けた保健行動や、狭心症症状の対処行動をとることで、心筋梗塞の再発を予防できることを説明する。
- 発作時の対処方法(ニトログリセリンの舌下錠の使用、受診、症状が持続するようであれば救急車の要請)を説明する。
実施・評価(例)
「胸の違和感を放っておいたことが心筋梗塞につながったんだよね」という発言とともに「正直まだ怖いけど、予防すれば同じことを繰り返さないと思えるようになったし、眠れるようになりました」という発言が聞かれるようになった。発症により体験した恐怖を徐々に受容し、睡眠パターンを取り戻せていると判断できる。今後は、問題となる症状発生時の対処行動と再発予防に向けた保健行動を退院までに獲得できるよう、指導していく必要がある。
評価日:治療15日目
看護問題 例3 不適切な療養行動により生命の危機的状態を繰り返し招く危険性がある。
Aさんは初めての入院です。疾患の知識がないことや、自身の健康に対する危機意識が低いと不適切な療養行動をとりかねません。安全に日常生活を再構築していくため、生活習慣や仕事、趣味の内容と活動量を把握します。仕事や趣味は、Aさん自身の社会的役割や価値につながるものであるため、“心機能が低下したからできない”のではなく、“どのような工夫をすれば負担を軽減し再開できるか”を考えられるよう支援することが大切です。これまでの習慣ではどのような心負荷が予測されるか、またどのような工夫により軽減できるかについて、Aさん自身が理解し日常生活に取り入れられるよう支援していく必要があります。
看護目標(期待される結果)
- 長期目標:仕事や趣味による心負荷を理解し、安全に再開できる。(評価予定日:退院日)
- 短期目標1:仕事やスポーツ、娯楽の運動量目安を理解できる。(評価予定日:治療18日目)
- 短期目標2:寒冷刺激、脱水、等尺性運動(静的運動)、ストレスなど心負荷となる要因について理解できる。(評価予定日:治療18日目)
- 短期目標3:仕事や趣味における心負荷要因を考え、復職時期や予防対策を計画できる。(評価予定日:治療18日目)
看護計画
観察計画(OP)
- 退院後の療養行動に対する考え
- これまでの受診行動
- 日課
- 仕事の内容、就労時間、仕事上のストレスの有無
- 趣味の内容、趣味を行う環境(季節による環境の違い)、時間帯、休息の程度、運動量
- 日課や仕事、趣味の再開について本人がどのように考えているか
援助計画(CP)
- Aさんのこれまでの生活の送り方について傾聴する。
- 退院後の服薬や定期受診の必要性について、Aさんの理解状況を確認し、望ましい行動をとれるように働きかける。
- 主治医と、Aさんの退院後の身体活動量の目安について相談し、指示内容の確認をする。医師から活動の指示に関する説明をしてもらえるよう調整する。
- 退院後の身体活動量の目安を把握できるよう働きかける。
- Aさんの生活において趣味の野球以外は、問題となる活動は特にないことを理解できるよう働きかける。
- 野球の練習は朝早く活動が始まり寝不足も加わること、早朝と昼の寒暖差があること、運動による心負荷の要因が多いことを理解し、負荷軽減のための工夫が必要であることを認識できるようはたらきかける。
- 趣味を再開するためにも、退院後の心臓リハビリの通院を勧める。心臓リハビリ室からも働きかけてもらえるよう調整する。
教育計画(EP)
- 心筋梗塞後の心機能変化について説明を行う。
- 服薬の必要性について説明する。
- 定期受診の必要性を説明する。
- 退院後も心負荷予防が必要であることを説明する。
- 狭心症や心筋梗塞の症状の特徴と対処方法、受診の必要性とタイミングについて説明する。
- 退院後の活動指標について、医師の指示内容の説明を行う。
- 心臓リハビリの必要性について説明する。
実施・評価(例)
Aさんは、「ふだんの生活や仕事は問題ないんだね。安心しました。」、「野球は心臓には負担が多いんだね。やめるとなったらつらいけど、工夫すれば野球に関われるから、相談しながらまた始めたいです。」との発言が見られた。
現在は心臓リハビリ室での運動療法を行っており、心臓リハビリスタッフへ「野球にまたかかわりたい。」と自ら相談を行い、退院後は心臓リハビリの外来に通院することとなった。
評価日:治療18日目
看護問題 例4 不適切な生活習慣により動脈硬化の危険因子を増強させ、心筋梗塞の再発を招く危険性がある。
退院後に適切な生活習慣を習得し継続していくためには、Aさん自身が生活習慣を変えることの重要性を理解し、それが自分に必要であるという認識をもてるよう動機づけを行うことが重要です。そして、Aさんの価値観や目標を尊重しつつ、これまでの生活の送り方を振り返りながら、Aさんが「これならできそうだ」と思える具体的方法を共に考え、自ら行動を決定してけるよう支援することが必要です。
看護目標(期待される結果)
- 長期目標:再発予防の必要性を理解し、再発予防に必要な食事療法や運動療法を日常生活に取り入れ、継続することができる。(評価予定日:外来受診時)
- 短期目標1:生活習慣の改善に主体的に取り組むことができる。(評価予定日:退院日)
- 短期目標2:動脈硬化の危険因子やこれまでの生活習慣の問題点を説明することができる。(評価予定日:退院日)
- 短期目標3:再発予防に必要な生活習慣について説明することができる。(評価予定日:退院日)
- 短期目標4:退院後に取り入れる生活習慣の具体的方法について学ぶことができる。(評価予定日:退院日)
看護計画
観察計画(OP)
- 自宅での食習慣、運動習慣
- 健康や疾患に対する認識
- Aさん自身の価値観やこだわり、今後の生活に対する目標や期待について
- ストレスへの対処方法
- 生活習慣を変えることに対する考えや関心、意欲
- 生活習慣を変えることに対するAさんの自己効力感
援助計画(CP)
- 発病後の生活への不安や考えについて傾聴する。
- これからの生活や生き方に対する目標について話し合う。
- Aさんのこれまでの生活について共感的姿勢で振り返り、改善の必要性を確認できるよう働きかける。
- 生活の中で冠危険因子に関係する習慣を確認し、予防のための工夫について話し合う。
- 生活習慣変容に向けて実行可能な目標を立てられるよう話し合う。
- 家族や同僚や友人の協力も得られるようはたらきかける。
- 薬剤師、栄養士からの支援がうけられるよう連携を図る。
教育計画(EP)
- 動脈硬化の危険因子について説明する。
- 再発予防の必要性と必要な予防行動(心機能に応じた適度な運動、禁煙、確実な服薬、食習慣の見直し、病気への理解、定期的な受診・検査)について指導する。
- 退院後の心臓リハビリ継続の必要性について説明する。
実施・評価(例)
Aさんから「一人息子の僕が、両院を悲しませるわけにはいかない。再発しないように、できることをします。」との発言があり、自分自身の健康を考える姿勢がうかがえるようになったため、具体的な改善方法について話し合うようにした。その結果Aさんは、入院中には心臓リハビリ室での運動療法と廊下を利用した散歩を実践し、また退院後に栄養士からの食事指導内容を実践したり、運動処方箋を出してもらい散歩を取り入れることにした。
生活習慣の改善に対し主体的な姿勢が見られたことを褒め、退院後も外来通院のたびに継続支援を行っていく。
評価日:退院日
基本的な看護問題とそれに対する標準的看護計画
症状に関連して生じやすい看護問題と実施する看護ケア
- 胸痛がある。 ➡ 血圧が保たれていれば、ニトログリセリンの舌下投与又はスプレー投与を行う。指示により、麻薬性鎮痛薬(モルヒネ塩酸塩)の静脈注射を行う。
- 胸痛による不安がある。 ➡ 不安は共通をさらに強めるため、指示により鎮静薬の与薬を行う。
- 左心不全による呼吸困難がある。 ➡ 酸素投与を行う。体位を工夫する(仰臥位を禁止とし、ファーラー位をとらせる)。気管挿管、人工呼吸管理の準備と介助を行う。
- 不整脈、心不全、ショックなど、心停止につながる合併症が出現するおそれがある。 ➡ 全身状態を観察する。心負荷を予防する。合併症出現時には背負う気に対応する。
検査・診断に関連して生じやすい看護問題と実施する看護ケア
- カテーテル検査に伴い、感染、血管損傷や出血、アレルギー症状、腎機能障害などの合併症が出現する危険性がある。 ➡ 検査による侵襲について、十分な説明を行う。医師の説明を理解できたか確認し、理解が不十分であれば説明を補足する。薬物アレルギー、感染、出血性疾患、肝機能・腎機能異常の有無などの情報収集を十分に行う。合併症の症状がないか観察を行い、症状出現時は早期に対応する。
- 治療方法の選択や、治療を受けることに対する不安がある。 ➡ 患者の不安を傾聴する。治療のメリットとデメリットについて十分に説明する。
- カテーテル検査中の同一体位の保持による身体的苦痛がある。 ➡ 同一体位保持の必要性について十分に説明し、理解と協力が得られることを確認する。
治療・予後に関連して生じやすい看護問題と実施する看護ケア
- 心筋壊死による心機能低下があり、心負荷の増大により合併症を招く危険性がある。 ➡ 疾患への理解を深められるように説明を行う。段階的に安静度を拡大することの必要性について説明する。二重負荷を予防することの必要性について説明する。全身状態の観察を行い、心負荷の有無を観察する。
- 回復期初期に、活動制限に伴うストレスがある。 ➡ 患者の苦痛や不安を傾聴する。安静の必要性について、理解できるよう説明する。
- 再発予防に向けた生活習慣改善に対するストレスがある。 ➡ 患者自身が再発予防の必要性を感じられるようはたらきかける。過去の生活習慣を否定的に指摘するのではなく、患者自身が問題に気付けるように支援する。辞し可能な行動から計画し、計画を実行できたら褒め、自己効力感を高めながら進められるよう援助する。
最後に
看護計画の立案って、とっても大変!基本の計画を活用しよう!
実習で接することのできるわずかな時間の中で、患者さんを理解し、患者さんの状況や特性をとらえ、「情報収集」、「アセスメント」、「看護診断」、「看護計画立案」するのは至難の業です。睡眠時間が削られ、心身共にボロボロ、早く週末が来ないかな、、、という学生さんの気持ち、よくわかります。
実習で患者さんに集中して関わるためにも、計画の立案に時間をかけすぎず、賢く時短しちゃいましょう。「基本の看護計画」を上手に応用して、患者さんに合わせた計画を立案し、実践に集中しましょう。実践からの学びは貴重です。多くの学びが得られ、充実した実習につながり(実習評価につながり)、自己成長の機会となります。疲れ切ってしまう前に、活用してくださいね。また、実践から看護計画を修正していきましょう。
なお、解剖生理、疾患、看護の基礎知識や患者さんの看護に必要な知識、技術は休日などにしっかりと学習しましょうね。
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