基礎看護実習の指導案を解説します。
基本設定は、
基礎看護実習1(7日間)
実習目標:看護の対象を理解し、看護の実際を知る
実習内容:担当する患者さんとのコミュニケーション
看護師と共に、看護援助を体験する
実習時間:8時30分~16時30分(昼休憩1時間)
です。
それぞれの看護学校や大学によって、先生方の考え方によって、実習での指導方法は様々だと思います。
これは、教員にこが、10年間実習指導を続けてきた中での、私なりの工夫が盛り込まれた指導方法です。
私自身の失敗や体験に基づいたものなので、参考までに、ということで、お願いいたします。
私が大事だと考えている以外にも、大切なことがあるかもしれませんが。
私の学びを看護教員や看護師さん、実習指導者の皆さんと共有でき、お役に立てたら嬉しいです。
実習1~3日目:学生自身の体験と患者さんの体験を重ねて考えてみよう。
前回は、「先入観を持たずに、患者さんに何が起こっているのか、学生自身が自分の五感を活用して情報を得る」ことについて、解説しました。
今回は、その解説の続きになります。
学生が五感を活用し、情報量が増えてきたら、分析(アセスメント)の段階に入ってきます。
アセスメントに拒絶反応をしめす学生の顔が目に浮かびますが、そんなに難しく考えることはありません。
看護過程の実習ではなく、看護の対象を理解する実習です。
看護の対象を理解する過程を学んでもらい、学生が理解した学生なりの「看護の対象とは」が、導き出せればよいのです。
そのためには、
- 学生が気になった患者さんの言動について、情報を整理する。
- 学生自身の過去の体験を振り返って、患者さんがどんな思いでいらっしゃるのか考える。
という手続きが必要です。
前回、学生が気にかけていた患者さんの言動は以下の通りです。
患者さんは、なぜため息ばかりついていらっしゃるのだろう。
患者さんは、なぜリハビリを休みたいとおっしゃったのだろう。
患者さんは、なぜ昼食を半分以上残してしまったのだろう。
午前中は笑顔だった患者さんが、このように様子が変わっていたら、心配になると思います。
優しくよく気がつく人であれば、看護を学んでいなくても心配になる情報だと思いますが、ここは、看護学生として心配をしてもらいたいと思います。
半年間、看護を学んでいますので、基礎看護学や解剖生理学の知識、生活や社会の理解、心理学や哲学などの一般教養などを活用して考えて欲しいのです。
あなたがため息ばかりついてしまう時は、どんな時かしら。
患者さんは、リハビリを休みたいっておっしゃったみたいだけど、あなたがいつもやっていることをやりたくないときってどんな時かな。
ご飯が食べられない時って、どんな時だろう。
私がため息ばかりついてしまうときは、・・・。
気がかりなことがあったり、不安なことがあったり、思うようにならないことがあるときだと思います。
明日、テストなのに全然勉強をしていないとか。
技術試験でも、友人と同じように練習しているはずなのに、私だけはうまくいかなかったり。
体調が悪くても、ため息が出るかもしれません。
心配事や悩み事がある、体調がわるかった時に、ため息がでたのね。
突然、ため息だけが出たのではないよね。
何か出来事があって、気がかりや不安があって、ため息が出たのよね。
じゃあ、患者さんも何かきっかけや出来事があって気持ちの変化があってため息が出たのではないかしら。
患者さんは「ため息をついていた。(事実)」ので、「心配事や不安(感情)があるのかも」しれない。
このように、事実から感情の順に焦点をあて、出来事を事実と感情とセットで理解しようとする姿勢を大事にしましょう。
患者さんは「リハビリを休みたいとおっしゃった。(事実)」とも学生は言っています。
その時の患者さんの表情について、学生は何も言っていませんが、もし患者さんが怒った顔(感情)をしていたらどうでしょうか。
私たちは、相手の反応を言葉だけでなく、表情や態度などでもとらえています。
時として、表情や態度などの「言葉にならないことば」の方が、私たちの心に届く(響く)場合もあります。
患者さんの言葉や行動(事実)だけに着目するのではなく、その時の患者さんの気持ち(感情)に寄り添いたいですね。
学生には、20年程の人生経験があります。
その人生の中で、看護師を目指そうとした経緯や背景があると思います。
学生が今まで生きてきた人生での出来事や、現在の生活に視点を当てて学生の話を聴いていくと。
なぜ目の前の学生が実習を頑張ろうとしているのか(あるいは、やる気がないようにみえるのか)がわかってきます。
それと同じように、患者さんがため息をついた経緯や背景が必ずあります。
患者さんが今まで生きてきた人生での出来事や、現在の生活に視点を当ててお話を聴いてみる必要があります。
ただ、患者さんとの関係性が十分に築けていない状況で、
ため息が多いですね。
なぜリハビリに行きたくないのですか?
昼食を半分以上残してしまったのは、なぜですか?
などと、質問攻めをしてしまうと、患者さんの抵抗を招く場合があるので注意が必要です。
よく、学生は、「患者さんに拒否されてしまいました。」などと言ってくる場合がありますが、
患者さんが質問攻めにあったときに、「少し休ませてください。」とか、「もう、沢山お話ししたでしょう?」と、抵抗するのは、自然な反応でもあります。
患者さんが心配であったり、理解したいと思い、色々とお聞きしたくなるのかもしれませんが、「一気に」ではなく「ゆっくりと」わかっていくのが良いと思います。
なかには、患者さんの味方でありたい、役に立つ存在でありたいとの思いから、患者さんのことを「わかったふり」をしてしまう学生がいます。
「わかったフリ」は、厳禁です。
以前にも解説したように、「相手を理解する(わかる)ことは不可能である」という前提のもとに、わからないからこそ、知ろう・わかろうとする 誠実な「相手に向きあう姿勢」を強調しておきたいと思います。
その上で、
先程から、ため息が多いように思います。
午前中は、笑顔だったので、何かあったのか心配です。
何か、お役に立てることはありますか?
などと、学生自身の気がかりなことについて、自分の心配な気持ちとともに伝えられるとよいと思います。
もし、患者さんから、「学生さんにできることはないよ。」とか、「大丈夫。何でもないよ。」と言われたとしても。
「そうですか。何かお手伝いできることがあれば、遠慮なくおっしゃってくださいね。」と、お伝えし。
〇〇分ほど、お時間を頂いてもいいですか。
入院前の生活について、お話を伺えればと思ったのですが。
といったように、「ため息」の原因を、患者さんの言葉ですぐに知ろうとするのではなく、現在の生活や、今までの人生の出来事からわかることはないかと、じっくりと患者さんの人生の物語を聴いてほしいと思います。
「ため息をついている。」という事実に焦点を当てるのではなく、患者さん自身を理解する、わかろうとする姿勢を、より大切にしてもらいたいと思います。
その患者さんの物語の中に、「ため息」につながるヒントが隠されているのではないかな、と思うのです。
そして、患者さんの人生の物語の中に、学生自身の人生の物語と同じような出来事があったとしたら。
学生は、自分自身の体験を振り返りながら、患者さんのため息をついている今の「思い」を想像することができると思います。
これは、繰り返し努力して患者さんの物語を聴いていくことで、自分の体験と患者さんの体験を重ねて考える ことのできる感性が育まれていくと考えます。
ポイントが3つありました。
- 「出来事」は「事実」と「感情」がセット。「事実」→「感情」の順に焦点をあてる。
- そうなった経緯や背景は何か、患者さんが今まで生きてきた人生での出来事や、現在の生活に視点を当ててお話を聴いてみる。
- 患者さんの体験と、学生自身の体験とを重ねて考えてみる。
この3つのポイントをふまえ、学生は患者さんをわかる・理解できるように努力すべきだと思うのですが、
教員や指導者さん、看護師さんや実習グループのメンバーなど、看護チーム全員の人生や体験からの学びを最大限に活用していく必要があります。
学生だけでは、患者さんの人生の物語・体験をカバーするための学生自身の人生経験や看護体験が不足しているからです。
教員や指導者さんの看護経験や人生の経験智、グループメンバー一人ひとりの人生経験や看護体験を最大限活用しながら、患者さんの物語や現在の状況をわかろうと努力していくのです。
教員や指導者さんを含めた看護グループメンバーの様々な体験を活用することで、学生の持っている情報を再構成し、患者さんはこのような思いや感情をお持ちだったのかなという「見立て」をし、「対象理解」を深めていきます。
患者さんをわかる・理解するということは、「How to」によって学べる(身につく)ものではありません。
患者さんと向き合い、患者さんの人生や現在の生活・物語を傾聴し、学生自身の体験と重ね、自分の事として考える感性も育んでいかなければなりません。
そして、最終的には患者さんに「ため息をついていたのは、〇〇と先生に言われて、がっかりされていたからですか。」と、思いやりを込めた確認をすることで、わかり合っていくことができます。(間違っていることもあるかもしれませんが。)
まとめ
今回は、難しい内容になってしまいました。
「学生自身の体験と患者さんの体験を重ねて考える」というのは、簡単なようで、とても難しい学習内容です。
患者さんの人生経験が豊かであればあるほど(年齢を重ねれば重ねるほど)、ため息ひとつにも様々な意味合いが含まれてきます。
家族背景や社会背景、ライフサイクルなどをふまえようと思うと、がっかりした、イライラしている、緊張している、悩んでいる、我慢している、ため息なのか、判断がつきにくくなってしまいます。
それを、なんとなくわかった気になって患者さんと接してしまうと、患者さんとの距離は縮まらないのではないでしょうか。
「相手を理解する(わかる)ことは不可能である」という前提のもと、わからないからこそ、知ろう・わかろうとする 誠実な「相手に向きあう姿勢」を、大切にしていきたいですね。
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