急性骨髄性白血病患者の看護計画

看護計画(疾患別)

看護問題 例1 化学療法による食欲低下、口内炎、舌炎があり、経口摂取ができなくなるおそれがある。

急性白血病の治療は、“totall cell kill(白血病細胞の全滅)”の概念に基づいて行う化学療法が中心になります。作用機序の異なる抗がん剤を組み合わせて使用する多剤併用療法が原則です。Aさんは化学療法の副作用として悪心や口内炎、舌炎をきたしています。今後は骨髄抑制期と重なり、口内炎や舌炎は悪化することが予想されるため、無理に経口摂取を勧めるのではなく、中心静脈カテーテルからの高カロリー輸液も検討し、低栄養状態を防ぐことが必要です。

看護目標(期待される結果)

  • 長期目標:栄養状態が悪化せず、Tp、Albが入院時より低下しない。 (評価予定日:退院日)
  • 短期目標:食べること(経口摂取)に苦痛を感じない。(評価予定日:治療開始10日目)

看護計画

観察計画(OP)

  1. 悪心・嘔吐の有無、程度
  2. 食事摂取の状況(食事内容、摂取量、食べ方)
  3. 口腔粘膜の発赤・腫脹・出血の有無、程度など
  4. 血液検査データ(Tp、Alb)
  5. 制吐剤の指示と使用履歴の確認

援助計画(CP)

  1. 指示に基づいて、早朝に制吐剤を使用する。
  2. 起床時、毎食後、就寝前の口腔ケアを徹底する。
  3. 病院食の希望を確認し、調整する。(Aさんが食べたい食品、食べられそうな食品を聞き、献立を調整してもらう。Aさんが希望したら、口当たりの良い栄養補助食品を補助食として提供する。)

教育計画(EP)

  1. 口腔ケアの方法を指導する。(血小板の値を考慮しながら、歯磨き、含嗽などの口腔ケアの方法と物品を工夫し、口腔内の清潔を保つ。口腔ケアは、起床時、毎食時、就寝前に行うよう指導する。)
  2. 食べやすい食品(果物、麺類、酢の物など)や栄養価の高い食品(ヨーグルト、温泉卵など)を紹介する。
  3. 日中の活動量を維持するよう指導する。

実施・評価(例)

悪心に対しては、制吐薬を用いることで嘔吐することなく経過した。食事摂取に関しては、食事の工夫について持ち掛け実践したところ、“どうしても提供された食事を食べなければならない”という義務感から解放され、好きなものを食べたいときに、少量ずつ摂取することができた。このため食事に対する拒否反応を示すこともなく、栄養状態の著しい悪化もみられなかった。

評価日:治療開始10日目

看護問題 例2 骨髄抑制による好中球の減少から、感染症が悪化するおそれがある。

好中球数が500/μL以下の状態が続くと、感染症が致命傷となる危険性が高い状態になります。こうした状況を回避するため、呼吸器感染症や、消化器感染症からの全身状態の悪化をきたさないようにするなど、全身の感染予防に努める必要があります。

看護目標(期待される結果)

  • 長期目標:重篤な感染症を発症しない。 (評価予定日:退院日)
  • 短期目標1:感染予防のための行動をとることができる。(評価予定日:治療開始32日目)
  • 短期目標2:感染症の徴候を知り、異常があった場合には報告できる。(評価予定日:治療開始32日目)

看護計画

観察計画(OP)

  1. バイタルサイン(体温、脈拍数、呼吸数、血圧、SpO2、意識レベル)
  2. 血液検査データ(WBC、Neu、CRP)
  3. 易感染状態に対する認識
  4. 感染予防行動(手洗い、含嗽、排便後の温水洗浄便座の使用、シャワー浴など)をとれているか。
  5. 感染徴候の有無と程度
・口腔:口腔粘膜・歯肉・咽頭・扁桃の発赤など
・呼吸器:咳嗽・喀痰、呼吸困難、呼吸音など
・腎・尿路:残尿感、排尿時痛、尿混濁、背部痛など
・消化器:下痢、腹痛、嘔吐など
・肛門部:発赤、疼痛、出血など

援助計画(CP)

1.無菌室内の環境調整(清掃の徹底温度、湿度、照度、音などの室内の環境調整と寝具の調整)を行う。
2.以下のセルフケアを指導する。
・手洗い(食事前、排泄後)
・含嗽と口腔ケア(起床時、食事前後、就職時)
・陰部および肛門の清潔保持のため、温水洗浄円座装置の使用
・全身の清潔保持(Hb、PLT、体温を確認したうえで問題がなければ、シャワー浴を行う。
3.面会者を制限(家族のみ)し、面会者の感染予防行動を徹底する。
・面会の際は手洗いとマスク着用が徹底されるよう指導を行う。
・かぜなどの感染症状がある場合は、面会を制限する。
4.無菌室での隔離都とし、以下のた対策をとる。
・医療者の手洗いとマスク着用を徹底する。
・Aさん専用の聴診器と血圧計を使用する。
・無菌食とし、生食を禁止(菓子、レトルト食品などの差し入れや間食も含めて禁止)する。
・飲料水も、加熱滅菌処理されたミネラルウオーターとする。

教育計画(EP)

  1. 感染徴候に自ら気づくことができるよう指導する(異常に気付いたときは、医療者に早期に知らせるよう説明する)。
  2. 感染予防の方法を説明する(手洗い、含嗽、口腔ケア、身体の清潔方法について説明する)。
  3. 家族への感染予防の指導を行う(家族にも感染予防の重要性を伝え、手洗い・マスク着用などの行動がとれるよう指導する)。

実施・評価(例)

Aさん自身、感染予防の必要性を理解し、手洗い、含嗽を励行し、継続することができました。この結果、もともとの感染症は悪化することなく経過し、正常造血の回復とともに治癒しました。しかし、健康な人と比較すると易感染状態にることに変わりはないため、感染予防のための自己管理が無理なく続けられるよう支援する必要があります。

評価日:治療開始32日目

看護問題 例3 骨髄抑制による血小板の減少から、出血のおそれがある。

Aさんは骨髄芽球の増加により、血小板数が少ない状況です。これに加え、治療の副作用のため血小板の産生が抑制され、大出血につながる危険性ももち合わせています。こうした危険を回避するためには、Aさん自身が出血予防の行動を実践できることが求められます。

看護目標(期待される結果)

  • 長期目標:脳出血や下血など、重篤な出血を起こすことなく退院できる。(評価予定日:退院日)
  • 短期目標1:出血徴候を自分で観察することができる。(評価予定日:治療開始32日目)
  • 短期目標2:出血に注意して行動(転倒予防、外傷予防、排便コントロール)ができる。(評価予定日:治療開始32日目)

看護計画

観察計画(OP)

  1. バイタルサイン(脈拍数、血圧)
  2. 治療内容と経過日数
  3. 血液検査データ(Hb,PLTなど)
  4. 口腔粘膜、舌の状況(発赤の程度、出血の有無・部位・程度)
  5. 出血予防行動がとれているか(鋭利なものを使用していないか、起居動作や歩行は安全に行えているか、転倒予防のために手すりなどを使ってゆっくり行動できているか、ベッド柵の設置など転落予防の安全対策を解ているか)
  6. 排便の状況(回数、硬さ、肛門部からの出血の有無・程度)

援助計画(CP)

  1. 環境調整(危険物の排除)を行う。
  2. 転倒、外傷、出血に注意した行動をとるよう説明する。(転倒しないための履物の選択、口腔ケア物品の選択、整容物品の選択(髭剃りは電気カミソリを使用する)
  3. 下肢の筋力低下を予防する。(無菌室内で立ち上がり動作を繰り返し行う。下肢の屈曲運動を行う。)
  4. 硬便にならないよう、水分摂取を促す。
  5. 発熱に対しては状況に応じ冷罨法を駆使し、解熱薬(消炎鎮痛薬)の使用は最小限度にとどめる。

教育計画(EP)

1.出血徴候に自分で気づくことができるよう指導する。
・点状出血、紫斑の見つけ方
・排泄物の色の確認
・出血しやすい部位

2.出血予防について説明する。
・鋭利な物の使用を避ける。
・柔らかい歯ブラシを使う。
・身体を締め付けるような衣類の着用は避ける。
・身体を洗うときには、柔らかいタオルを使用し、強くこすらない。
・転倒・転落、頭部の打撲に注意してゆっくり安全に行動する。

実施・評価(例)

Aさんは、貧血によるふらつきは見られましたが、ゆっくり行動し、ベッド柵などの安定したものにつかまり行動することで、転倒や転落を回避し頭部を打撲することなく経過した。また水分摂取に努めコントロールを行ったことで便秘になることなく肛門部からの出血を予防することができた。今後は無菌室から一般病棟へ転棟した際には行動範囲が拡大することも考慮に入れ、引き続き、出血予防のためのセルフケアが適切に継続できるよう支援していく必要がある。

評価日:治療開始32日目

基本的な看護問題とそれに対する標準的看護計画

症状に関連して生じやすい看護問題と実施する看護ケア

  1. 正常な好中球の減少により、免疫能が低下するおそれがある。 ➡ 手洗い、含嗽、マスクの着用など、感染予防の方法を指導する。
  2. 発熱による体力の消耗があり、日常生活動作に支障が生じるおそれがある。 ➡ 冷罨法によって安楽になるように努め、体力の消耗を最小限にとどめる。
  3. 血小板の減少により、出血のおそれがある。 ➡ 打撲、皮膚の圧迫、転倒による外傷を予防し、大出血に至らないようにする。
  4. 白血病細胞の中枢神経への浸潤により、麻痺や意識障害がしゅつげんするおそれがある。 ➡ 意識レベルや神経麻痺の有無に注意して観察し、異常の早期発見に努める。

検査・診断に関連して生じやすい看護問題と実施する看護ケア

  1. 検査結果に対する不安から、闘病意欲が低下するおそれがある。 ➡ 患者の表情や行動を観察し、訴えを傾聴することで不安の解消を図る。
  2. 採血や骨髄穿刺と言った疼痛を伴う検査について恐怖心を抱くおそれがある。 ➡ 苦痛を軽減できるよう事前の準備を整え短時間で検査を終了できるように努める。
  3. 白血病という診断に対する不安・恐怖がある。 ➡ 症状に対する正しい知識が得られるよう、医師から説明してもらう。必要時は説明内容を補足する。患者の不安な気持ちを傾聴し、疾患を受容し、闘病できるよう支援する。

治療・予後に関連して生じやすい看護問題と実施する看護ケア

  1. 病気を受け止める時間もない中で化学療法が開始されたことで不安がある。 ➡ 診断から知慮開始までの時間が短いことを考慮し、表情や行動を観察するとともに訴えを傾聴し、不安の軽減に努める。
  2. 化学療法の副作用に対する不安がある。 ➡ 治療計画や副作用の出現期間を説明し、副作用の予防に努める。
  3. 支持療法として繰り返し実施される輸血に対し、不安がある。 ➡ 輸血による短期・長期の副作用を理解し、異常の早期発見と対処に努める。
  4. 再発の恐れや、治療が効かなくなるなど、予後についての不安がある。 ➡ 患者の言動を観察して病状に対する不安を受け止め、心身の安寧が得られるように支援する。

最後に

看護計画の立案って、とっても大変!基本の計画を活用しよう!

実習で接することのできるわずかな時間の中で、患者さんを理解し、患者さんの状況や特性をとらえ、「情報収集」、「アセスメント」、「看護診断」、「看護計画立案」するのは至難の業です。睡眠時間が削られ、心身共にボロボロ、早く週末が来ないかな、、、という学生さんの気持ち、よくわかります。でも、白血病の治療は長期にわたるため、患者さんやそのご家族も、必死に疾患や治療について勉強し、闘病されています。

教員にこ
教員にこ

実習で患者さんに集中して関わるためにも、計画の立案に時間をかけすぎず、賢く時短しちゃいましょう。「基本の看護計画」を上手に応用して、患者さんに合わせた計画を立案し、実践に集中しましょう。実践からの学びは貴重です。多くの学びが得られ、充実した実習につながり(実習評価につながり)、自己成長の機会となります。疲れ切ってしまう前に、活用してくださいね。また、実践から看護計画を修正していきましょう。

なお、解剖生理、疾患、看護の基礎知識や患者さんの看護に必要な知識、技術は休日などにしっかりと学習しましょうね。

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