看護問題 例1 病識が乏しいことや、くも膜下出血を発症した生活背景から合併症発症とくも膜下出血再発のリスクがある。
くも膜下出血の原因として最も多いのは脳動脈瘤破裂です。加齢に伴う血圧の上昇や退行性変化によってくも膜下腔に出血が起こり、脳脊髄液に血液が混入した状態を指します。術後は、再出血、深部静脈血栓症や肺血栓塞栓症などの合併症のリスクがあります。くも膜下出血の合併症は、早期発見・早期治療できるかどうかが障害の程度に影響します。
Aさんは、脳血管攣縮の症状(意識レベル低下後に麻痺が出現)があり、すでに治療を開始していますが、再び脳血管攣縮が生じるおそれはあります。くも膜下出血では血圧管理が重要ですが、急性期には脳血管攣縮予防の観点から血圧はやや高めでもよいとされています。
こうした状況において、そばで見守る家族は血圧管理や点滴、患者の行動そのものに不安を感じ悩みます。Aさんだけでなく家族も疾患を理解し、ともに治療・ケアに臨むという姿勢で早期発見・早期治療に努めます。
看護目標(期待される結果)
- 長期目標1:くも膜下出血が再発せずに過ごすことができる。(評価予定日:1か月後)
- 長期目標2:家族の協力で合併症の早期発見と再発予防のための行動ができる。(評価予定日:1か月後)
- 短期目標:家族と共に以上に早期に気づき、看護師に伝えることができる。(評価予定日:入院2週間後)
看護計画
観察計画(OP)
- バイタルサイン(体温、脈拍数、血圧、呼吸数、SpO2、意識レベル)
- 顔面麻痺の程度(柳原40点法)
- 上下肢の運動麻痺の程度(ブルンストローム・ステージ:Brs、上肢のバレーテスト、ミンガッチーニ徴候)
- 顔面、上下肢、体幹の感覚麻痺の程度(二点識別覚)
- 眼の見え方(複視の有無、見え方についての発言、線分二等分課題)
- ろれつ不良と失語の有無(会話や呼称をしてもらう)
- 頭痛、悪心・嘔吐、倦怠感(程度、いつ生じるか)
- 瞳孔、対光反射(意識レベルの低下などの異常時に行う)
- 検査所見(頭部CT検査、頭部MRI検査)
- 水分出納と食事摂取量
- 脳槽ドレーン管理(圧、量、性状、拍動、挿入部の皮膚状態)
援助計画(CP)
- バイタルサインを測定し、値は家族にも伝えて共有する。
- 異常があるときは速やかに医師に報告する。
- 麻痺や意識状態の異常がある場合は、症状が改善・安定するまでリハビリや食事、服薬は医師の許可があるまで中止して待つようにする。
- できるだけ患者や家族のそばにいるようにし、気持ちを傾聴し不安を表出できる場をつくる。
- 食事が摂れない状態が続くときは医師に報告する。
- 新たな医療行為の実施前や薬の使用時には必要性を説明し、家族が理解しているか確認する。
- 医師の快信二に説明を受けた内容が理解できているか確認し、必要に応じて医師に家族に対する病状説明を依頼する。
- 家族にねぎらいの言葉をかける。
教育計画(EP)
- 異常時(脳血管攣縮が生じたとき)にどういう症状を示すか家族に説明し、気になることがあればすぐにナースコールで知らせるよう伝える。
- Aさんにやさしく触れたり、励ましなどの声かけを積極的にしてよいことを家族に伝える。
- Aさんと家族が疑問や不安に感じていることを把握し、疑問点について説明する。
- 飲水をどれくらいしたか、家族に記録してもらう。
実施・評価(例)
家族は入院4日目まで昼夜Aさんに付き添い、それ以降、夜間は帰宅するようになった。付き添っている間は、異常だと感じたときはすぐに質問やナースコールをしていた。
Aさんは入院5日目に脳槽ドレーンが抜去されたが、意識レベルJCSⅠ-2~Ⅱ-30と安定せず、右上下肢の麻痺が悪化した(ブルンストローム・ステージ:上肢ステージⅡ、下肢Ⅲ、手指Ⅱ)。
妻に疲労が見受けられ、「安心して帰ることができる」という発言の一方で、「夜になると(Aさんが)どうしているか気になる」という発言もあった。短期目標は達成したが、今後も脳血管攣縮期が続くため、家族の不安を聞き、異常の早期発見に努めていく必要がある。
評価日:入院3週間後
看護問題 例2 麻痺や筋力低下、高次脳機能障害、安静制限によりセルフケアが不足している。
安静指示はありますが、早期離床を目指してADL拡大を図るため、高次脳機能障害や右上下肢の麻痺があることを視野に入れながらケアを行う必要があります。排泄や清潔行動の自立はもちろん目指すべきところですが、Aさんの場合は食事が始まった段階であることを踏まえ、まずは自力で食事ができるよう環境調整し、自身につなげることを目指します。
看護目標(期待される結果)
- 長期目標1:関節拘縮が起こらず、筋力低下が生じない。(評価予定日:1か月後)
- 長期目標2:介助により日常生活を過ごすことができる。(評価予定日:1か月後)
- 短期目標1:ベッドアップし、座位を保持することができる。(評価予定日:2週間後)
- 短期目標2:食事を自力で最後まで食べることができる。(評価予定日:2週間後)
看護計画
観察計画(OP)
- 安静臥床時、ベッドアップした時のバイタルサイン(血圧、呼吸数、SpO2、意識レベル)
- 食事に対する意欲、食事量、食べ方
- 顔面、上下肢の運動麻痺の程度(ブルンストローム・ステージ、上肢のバレーテスト、膝立てテスト、徒手筋力テスト(MMT)
- 眼の見え方
- 頭痛、悪心・嘔吐、倦怠感(程度、いつ生じるか)
- 関節痛の有無(指、手、肘、肩、股、膝、足)、関節腫脹、熱感、筋肉痛の有無
- 脳槽ドレーンの状況(排液状況、圧設定、拍動、アップやケア前後のドレーンルートの位置)
援助計画(CP)
〇食事の介助
- 脳槽ドレーンの拍動などを確認してからクランプし、ルートの位置に注意して2名以上でベッドアップする。
- 血圧を確認しながら45°、60°と徐々にベッドアップする。起立性低血圧が生じたらすぐにベッドを下げる。
- 食事前に反復唾液嚥下テストを行い、嚥下機能を確認する。判定が2回以下の時は食事を中止とする。
- 右手でスプーンを持つよう促す。できない時は左手にする。食べられない時は全介助とする。
- 自助具などを用い、食べやすいよう工夫する。(柄の太いスプーンにするなど)。
〇口腔ケア
- 看護師が歯ブラシやコップを準備し、歯磨きはAさん自身で行ってもらう。疲労感があるときは全介助とする。
〇清拭、陰部洗浄、体位変換
- ルート類の抜去予防のため、ケアの際は看護師が複数で関わる。
- 側臥位での体位変換は、柵につかっ待ってもらった状態で行う。
- 衣服の着脱時は腰上げしてもらえるよう声をかける。
〇運動
- 関節可動域訓練を看護師が行う。健側から行い、患側は看護師が介助する。左右の指・手・肘・肩・股・膝・足関節それぞれで5回×2セットを朝夕に実施する。
教育計画(EP)
- 食事の介助方法を家族に指導する。
- 手のグーパー運動やマッサージの方法をAさんや家族に指導する。
- 関節の痛みなど、何らかの症状が生じたときはすぐに知らせるよう伝える。
実施・評価(例)
右上肢の麻痺のため、スプーンの柄を太くしても右手では握りにくく食べにくい様子で、食事をやめてしまうことがあった。左手で食べるよう促したところ、自力で食べる様子が見られたため、食器も滑りにくく底の深いものに変更した。妻もAさんに食べてほしいという思いがあり、今後は妻に対する食事時の注意点の指導も必要である。
現在関節の拘縮はないが、麻痺がやや進行してきている。ベッドを90°ベッドアップして座位の保持が可能であるが、徐々に麻痺側に倒れてきてしまう。また、麻痺により不良肢位をとってしまえば拘縮が進行しやすくなる。このため、CPにポジショニングも追加することとする。
ベッドアップして座位保持という短期目標は達成しているが、麻痺の進行もみられるため、継続してかかわりが必要である。
評価日:入院2週間後
基本的な看護問題とそれに対する標準的看護計画
症状に関連して生じやすい看護問題と実施する看護ケア
- 脳動脈瘤の再破裂に伴う出血の危険性がある。 ➡ 血圧上昇を避けるため、疼痛刺激や過度のストレス、強い音や光などの刺激を避け静かな環境を提供する。血圧測定や神経所見を観察する際、またケア時には、患者に不要なストレスをかけないようにする。
- 脳血管攣縮による脳梗塞発症の危険性がある。 ➡ 意識レベル、バイタルサイン、局所神経症状の観察を継続的に行い、状態の変化を早期に発見し対応する。脳槽ドレナージの管理(設定圧、心拍に動悸して生じる髄液の拍動の有無、排液の量・性状、回路の異常の有無)を行う。
- 正常圧水頭症症状により、身体損傷や転倒の危険性がある。 ➡ 患者のADLや認知レベルに合わせて、生活環境の調整、移動手段・介助の変更などの調整を行う。
検査・診断に関連して生じやすい看護問題と実施する看護ケア
- 検査時の移送に伴う外部刺激による再破裂の危険性がある。 ➡ 検査室への移送や移乗は、患者に衝撃を与えないよう、ゆっくり静かに行う。検査中も、意識レベルやバイタルサインを継続的に観察し、状態の変化に早期に対応する。
- 脳血管造影に伴う合併症(下肢動脈閉塞、穿刺部血腫、ヨード過敏症)の危険性がある。 ➡ 検査前~後にかけて足背動脈の蝕知確認を行う。指示された検査後の安静が保持できるよう援助する。造影剤の副作用症状(発疹、悪心・嘔吐、熱感など)の観察を行い、救急対応できるよう準備しておく。
- 突然の発症~診断、治療法の選択、治療の開始となるため、患者と家族の不安が大きい。 ➡ 患者・家族の話を傾聴し、それぞれの疾病や治療への受け止め方や援助ニーズを把握し、対応する。
治療・予後に関連して生じやすい看護問題と実施する看護ケア
- 意識障害や術後安静、麻痺などの運動障害により廃用症候群を生じやすい。 ➡ 根治術後の急性期では、意識レベル、バイタルサイン、局所神経症状の増悪がないか観察しつつ、体位変換、関節可動域訓練を行う。
- 後遺症(意識障害、運動麻痺、工事能機能障害など)によりADLを自立して行えないことが予測される ➡ 患者の症状や残存能力、本人や家族の意思を尊重して目標とするADLを設定するとともに、個々の患者に適した動作方法や補助具の使用を支援する。
- 仕事や家庭・地域の役割を遂行できなくなることにより、患者・家族のストレスが増強するおそれがある。 ➡ 患者・家族のニーズを把握し、それに応じた支援を行う。必要時、医療ソーシャルワーカーや退院調整看護師らと連携して公的制度などを紹介し、退院後の生活を構築する。
最後に
看護計画の立案って、とっても大変!基本の計画を活用しよう!
実習で接することのできるわずかな時間の中で、患者さんを理解し、患者さんの状況や特性をとらえ、「情報収集」、「アセスメント」、「看護診断」、「看護計画立案」するのは至難の業です。睡眠時間が削られ、心身共にボロボロ、早く週末が来ないかな、、、という学生さんの気持ち、よくわかります。でも、くも膜下出血の急性期においては、再出血を予防するための慎重なかかわりが求められます。“勉強してなかったからわかりませんでした・・”で済まされない大きなリスクがあります。しっかりと看護のポイントをつかんでおきましょう。
実習で患者さんに集中して関わるためにも、計画の立案に時間をかけすぎず、賢く時短しちゃいましょう。「基本の看護計画」を上手に応用して、患者さんに合わせた計画を立案し、実践に集中しましょう。実践からの学びは貴重です。多くの学びが得られ、充実した実習につながり(実習評価につながり)、自己成長の機会となります。疲れ切ってしまう前に、活用してくださいね。また、実践から看護計画を修正していきましょう。
なお、解剖生理、疾患、看護の基礎知識や患者さんの看護に必要な知識、技術は休日などにしっかりと学習しましょうね。
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