肺がん患者の看護計画

看護計画(疾患別)

看護問題 例1 病状の進行や治療に対する不安、治療継続による社会的役割の中断に伴う苦悩がある。

治療の必要性を認識しているからこそ、喫煙習慣などへの後悔や、病状への不安が出現します。さらに、家族役割や社会的役割の中断に伴い、申しわけないという気持ちを抱くこともあります。そこで、これから治療に専念できるように支援することが問題解決のきっかけになることが考えられます。

看護目標(期待される結果)

  • 長期目標:退院後も、安心して治療を継続できる。 (評価予定日:退院日)
  • 短期目標:病状に対する悲嘆や後悔、不安な感情を表出することができる。(評価予定日:治療7日目)

看護計画

観察計画(OP)

  1. 肺がんである自分をどのように受け止めているのか、言動を注意深く観察する。
  2. 表情、自らの病状、社会的役割などに関する言動。
  3. 面会者や他の患者との会話の様子・内容。
  4. 化学療法、放射線療法に関しての言動、治療に臨む様子。

援助計画(CP)

  1. 1日1回は、直接Aさんに話を聴く場を設定する。
  2. Aさんがどのような思いで治療に臨んでいるか、家族に対してどのような思いを抱いているかを家族に伝える。
  3. Aさんから希望があれば、カウンセラーやソーシャルワーカーなど相談窓口を紹介する。

教育計画(EP)

  1. 治療のスケジュールを伝える。
  2. 不安なこと、心配なことなど、いつでも話を聴くことを伝える。
  3. 肺がんの治療をした経験を持つ人の話を聴きたい場合は、患者会を紹介する。

実施・評価(例)

Aさんと話をする時間を確保したことで、肺がんになった自分のことを語り、抱えている不安や疑問を自ら表出することができている。今後は、治療による副作用のためつらい時期に入るが、そのつらさを乗り越えていけるよう、より注意深い観察をしながらかかわっていく。そして、セルフケアできる環境を提供していく。

評価日:治療7日目

看護問題 例2 治療に伴う副作用の出現により、食事摂取ができないおそれがある。

化学療法、放射線療法の影響から悪心・嘔吐や、粘膜障害による口内炎・嚥下時の咽頭痛が出現することが予想されます。食事が摂れないことで栄養状態が悪化し、体力が低下することも心配されます。そのため、事前の対策が必要です。さらに、今後も治療が続き、自宅に戻ってからも症状が出現した際に対処できることを考慮してかかわっていく必要があります。

看護目標(期待される結果)

  • 長期目標:体重56.0㎏以上を維持し、退院することができる。 (評価予定日:退院日)
  • 短期目標1:「食事を食べられた」という自信を持つことができる。(評価予定日:治療14日目)
  • 短期目標2:補食(差し入れなど)と病院食を合わせて900kcal/日程度を経口摂取することができる。(評価予定日:治療14日目)

看護計画

観察計画(OP)

  1. 食事摂取の状況(内容、量、食べ方)
  2. 摂取可能な食物の状況(食べたい食事の内容、量、味付け、温度)
  3. 悪心・嘔吐の有無、程度
  4. 口内炎・食道炎の有無と程度(口腔内のざらざら感、焼けるような感じ、しみる感じ)
  5. 嚥下時の咽頭痛の有無と程度
  6. 味覚障害の有無と程度
  7. 血液検査データ(TP、Alb)
  8. 口腔内の清潔状況や口内炎予防のセルフケアの様子
  9. 病室内の換気の状態

援助計画(CP)

  1. 医師の指示に基づいて、効果的に制吐薬を使用する。
  2. 含嗽および口腔ケアを徹底する。
  3. 病院食の希望を確認し調整する。
  4. 家族からの差し入れ状況を確認し、必要時には、栄養士に相談できるようにする。(食材の選び方や調理方法など)。
  5. 刺激性の食品(香辛料など)を避け、食べられるものを少しずつ食べられるようにする。

教育計画(EP)

  1. 口腔ケアの方法を指導する。
  2. 口当たりがよく食べやすい食品、栄養価の高い食品(ゼリー、シャーベット、ヨーグルト、プリン、スープ、フルーツ、豆腐など)を紹介する。
  3. 日中の活動量を維持するように指導する。
  4. 化学療法後、早期に退院する場合は、栄養状態を低下させないよう、栄養摂取の工夫について家族を含めて指導する。

実施・評価(例)

制吐薬の使用により、嘔吐することなく1クール目(2週間)の治療を終了することができた。また頻回に含嗽を行い、毎食後に歯および歯間、舌のブラッシングを行ったことで、口内炎も発生しなかった。

今後は食事摂取量が増えるよう、味付けや盛り付けなどを工夫し、体重や栄養状態を維持する必要がある

評価日:治療14日目

看護問題 例3 骨髄抑制による好中球の減少から、感染の危険性がある。

抗がん薬は、がん細胞のみならず正常な細胞にも影響を与え、種々の副作用を起こします。特に骨髄抑制として好中球減少、血小板減少、貧血を引き起こします。

好中球には細菌や生体にとっての異物を貪食するはたらきがあるため、好中球の減少は重症感染症を引き起こし、生命の危機にもつながります。そこで、Aさん自身が感染予防の行動を実践できるよう指導する必要があります。

看護目標(期待される結果)

  • 長期目標:重篤な感染症がなく退院することができる。(評価予定日:退院日)
  • 短期目標1:感染予防に対するセルフケアを行うことができる。(評価予定日:治療21日目)
  • 短期目標2:感染徴候がない(38℃以上の発熱がない。感冒症状、肛門部感染などがない)。(評価予定日:治療21日目)。

看護計画

観察計画(OP)

  1. バイタルサイン(発熱の有無、脈拍数、呼吸数、血圧)
  2. 治療内容と経過日数
  3. 血液検査データ(WBC、好中球数、CRP、TP、Alb)
  4. 咳嗽の有無、喀痰の量と性状
  5. 呼吸状態、呼吸音
  6. 胸部X線検査所見
  7. 前回の治療後の感染徴候
  8. 感染予防行動をとれているか
  9. 顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)製剤の使用状況

援助計画(CP)

  1. 環境調整を行う(清拭の徹底)。
  2. セルフケアを指導する(食事前・排泄後・帰室時の手洗い、起床時・食事前後・就寝時・帰室時の含嗽と口腔ケア、陰部・肛門部・全身の清潔保持、病室を出る際のマスク着用)。
  3. 面会者に手洗いとマスク着用の指導を行う。
  4. 好中球1000/μL以下の時の対応(個室隔離でアイソレーターなどを使用、医療者の標準予防策の徹底、加熱食とし生食を禁止する)

教育計画(EP)

  1. 感染徴候に自分で気づくことができるよう、具体的な徴候(発熱、熱感、倦怠感など)を指導する。
  2. 感染予防方法を説明する。
  3. 家族に感染予防の指導を行う。
  4. 化学療法後、早期に退院する場合は、自宅で感染予防行動がとれるよう指導する。

実施・評価(例)

G-CSF製剤を使用したことで、重篤な感染を起こさずに経過した。口腔ケアと手洗い、含嗽、清潔の保持などの感染予防行動のセルフケアも習得しつつある。今後も引き続き、感染予防を徹底するためにセルフケアが適切に継続できるよう援助する

評価日:治療21日目

看護問題 例4 骨髄抑制による血小板の減少から、出血の危険性がある。

抗がん薬の副作用(骨髄抑制)として、血小板減少、貧血などがみられることから、転倒による大出血の危険性があります。

血小板は止血に関与しており、血小板が減少することで大量出血を引き起こし、出欠すると生命の危機にもつながります。そこで、Aさん自身が出血予防の行動を実践できることが求められます。

看護目標(期待される結果)

  • 長期目標:重篤な出血がなく退院することができる。(評価予定日:退院日)
  • 短期目標:出血に注意して行動できる(転倒予防、外傷予防、排便コントロール。(評価予定日:治療21日目)

看護計画

観察計画(OP)

  1. バイタルサイン(体温、脈拍数、呼吸数、血圧)
  2. 治療内容と経過日数
  3. 血液検査データ(TP、PLTなど)
  4. 前回の治療後の出血徴候
  5. 出血予防行動がとれているか

援助計画(CP)

  1. 環境調整を行う(危険物の除去)。
  2. 転倒・外傷に注意して行動をとるよう説明する(口腔粘膜を傷つけないように口腔ケア物品を選択する、スリッパではなく靴を履くなど転倒予防のための履物を選択する)。
  3. 定期的に排便が得られるよう、緩下薬の服用、水分摂取の援助を行い、腹部マッサージを行う。

教育計画(EP)

  1. 出血徴候に自分で気づくことができるよう、具体的な徴候(鼻出血、口腔内出血など)を指導する。
  2. 出血予防の方法について説明する。

実施・評価(例)

転倒による大出血を予防するため、病室内の環境調整を行った。また、排便コントロールにより、肛門からの出血を予防することができた。現段階では出血傾向は確認されていない。

退院後は、活動範囲が広がることで転倒・転落の危険性が高まるため、セルフケアが継続できるよう援助する。

評価日:治療21日目

基本的な看護問題とそれに対する標準的看護計画

症状に関連して生じやすい看護問題と実施する看護ケア

  1. 化学療法、放射線療法の副作用により、骨髄抑制が出現する恐れがある。 ➡ 含嗽と手洗いを励行し、外出時は輪空くを着用するなど、感染予防策を実施する。
  2. がんが胸膜に波及することにより、浸潤部位に持続的な疼痛が出現する。 ➡ 患者が体験する苦痛を理解する。疼痛に対しては薬剤を使用し、コントロールする。
  3. 腫瘍の増大により肺実質が減少するため、十分な酸素供給ができず呼吸困難が出現する。 ➡ 呼吸状態を観察する。安楽な体位を工夫する。

検査・診断に関連して生じやすい看護問題と実施する看護ケア

  1. 気管支鏡検査(病理学検査)に伴う不安が出現するおそれがある。 ➡ 検査の目的、方法、実施時間などについて、わかりやすく説明する。
  2. 気管支鏡検査に伴い、バイタルサインが変動するおそれがある。 ➡ 検査実施中は、脈拍、血圧、動脈血酸素飽和度(PaO2)の観察を行う。検査後は血痰の有無を観察する。
  3. 肺がんの診断により、予後に対する不安や恐怖が出現するおそれがある。 ➡ 病状説明を丁寧にわかりやすく行い、正しい知識が得られるようにする。患者の表情や言動を観察し、思いを傾聴する。患者が思い描く将来の計画通りにならないことによる焦りや嘆きを表出できるようにし、受け止める。

治療・予後に関連して生じやすい看護問題と実施する看護ケア

  1. 手術療法、放射線療法、化学療法に対する不安が出現する。 ➡ 治療計画、副作用の症状とその出現時期、対処方法についてわかりやすく説明する。
  2. 化学療法、放射線療法の副作用で、悪心・嘔吐が出現するおそれがある。 ➡ 悪心の程度、嘔吐の有無を観察し、早期に制吐薬を用いる。食事量の低下があれば、食べられるものを食べたいときに少しずつ摂取できるよう援助する(無理に食べる必要はないことを伝える。)
  3. 化学療法の副作用で、口内炎が出現するおそれがある。 ➡ 口腔内の清潔を保持するため、口腔ケアの指導を行う。炎症を緩和させる作用のある含嗽薬を用いてブクブクうがいを行う(咽頭痛がある場合ガラガラうがいも行う)。
  4. 放射線療法の副作用で、照射部位の皮膚炎や咽頭~食道部の炎症を生じるおそれがある。 ➡ 皮膚炎に対しては、皮膚への刺激を避ける(こすらない、石けんで洗わない、安易に冷やさない、掻痒感には軟膏薬をを処方してもらうなど)。咽頭~食道部の炎症に対しては、嚥下時の疼痛緩和のための援助を行う。
  5. がんが再発した場合、予後への不安が出現するおそれがある。 ➡ 検査結果などをふまえ、現在の状態をわかりやすく説明する。思いを傾聴し、今後の治療・療養に関して意思決定できるよう支える。

最後に

看護計画の立案って、とっても大変!基本の計画を活用しよう!

実習で接することのできるわずかな時間の中で、患者さんを理解し、患者さんの状況や特性をとらえ、「情報収集」、「アセスメント」、「看護診断」、「看護計画立案」するのは至難の業です。睡眠時間が削られ、心身共にボロボロ、早く週末が来ないかな、、、という学生さんの気持ち、よくわかります。

教員にこ
教員にこ

実習で患者さんに集中して関わるためにも、計画の立案に時間をかけすぎず、賢く時短しちゃいましょう。「基本の看護計画」を上手に応用して、患者さんに合わせた計画を立案し、実践に集中しましょう。実践からの学びは貴重です。多くの学びが得られ、充実した実習につながり(実習評価につながり)、自己成長の機会となります。疲れ切ってしまう前に、活用してくださいね。また、実践から看護計画を修正していきましょう。

なお、解剖生理、疾患、看護の基礎知識や患者さんの看護に必要な知識、技術は休日などにしっかりと学習しましょうね。

 

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