看護問題 例1 急性増悪を再び起こす危険性がある。
慢性閉塞性肺疾患(COPD)に呼吸器感染症を併発すると、発熱、咳嗽、粘稠痰および喀出困難のため酸素飽和度を低下させ呼吸困難が増強します。COPDでは息を吐く力が弱くなっているため効果的な喀痰の排出ができず、換気障害を起こして呼吸機能が確実に低下します。特に急性期においては抗菌薬による炎症症状の治療や確実な酸素投与を行い、生活面では酸素消費を減らすための日常生活行動の援助や効果的な喀痰排出など、適切な治療・援助を行い、呼吸困難を軽減することが必要です。
看護目標(期待される結果)
- 長期目標:肺機能の低下を起こすことなく肺炎が治癒する。 (評価予定日:退院後の外来受診時)
- 短期目標1:効果的な喀痰排出ができ、換気量が増加する。(評価予定日:退院前日)
- 短期目標2:呼吸困難時の不安や、不安による呼吸困難の増強に対処し、体動時も息切れを起こすことなく日常生活行動が自立できる。(評価予定日:退院前日)
看護計画
観察計画(OP)
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- 安静時・体動時の呼吸状態の観察
①バイタルサイン、呼吸状態
②呼吸困難の程度(安静時、体動時)
③酸素飽和度の経時的観察 - 咳嗽・喀痰と喀痰排出状況の観察
④呼吸音の聴取
⑤咳嗽・喀痰(色、量、粘稠度)と喀出時の呼吸困難の増強程度
⑥胸部X線像、WBC、CRP、血液ガス分析データの推移
- 安静時・体動時の呼吸状態の観察
援助計画(CP)
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- 喀痰の粘稠度を低下させ、効果的な喀出につなげる。
①適切な水分補給を行う。
②去痰薬を効果的に使用する。
③喀痰の効果的な排出方法(体位ドレナージ、呼吸法、咳嗽を介助する。
④必要に応じて吸引を行う。 - 生活行動に伴う酸素消費量に応じた酸素供給により、活動性を維持する。
⑤必要時、酸素療法を行う。
⑥経時的に酸素飽和度や自覚症状を観察し、活動量に合わせて援助を行う。
⑦肺炎症状の回復に合わせ、徐々に活動範囲を拡大する。
- 喀痰の粘稠度を低下させ、効果的な喀出につなげる。
教育計画(EP)
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- 喀痰喀出の重要性を理解させ、楽に喀出できる方法を指導する。
①水分補給、体位ドレナージの方法
②効果的な呼吸法や咳嗽の仕方 - 活動と呼吸困難との相関を理解し、適切な呼吸方法や動作などができるよう呼吸訓練を指導する
③口すぼめ呼吸や腹式呼吸、息切れが少ない動作の指導
④呼吸困難を助長する動作とその回避法の指導
⑦呼吸困難を感じたときの対処方法の指導
- 喀痰喀出の重要性を理解させ、楽に喀出できる方法を指導する。
息切れしない動作の基本
・動作の前に腹式呼吸で呼吸を整える
・息を吐くタイミングに合わせて動作を開始する
・呼吸のリズムに合わせてゆっくり動作を行う
・動作と動作の間に休みを入れる(2つ以上の動作を連続して行わない)
・いきむ、状態をかがめる、腕を高く挙上する動作、重い荷物を持つ動作はさける。
実施・評価(例)
急性症状が軽減し、酸素療法が中止となってからも体動時などには呼吸困難が強くなることがあったが、呼吸法や動作の指導を受け、Aさんは積極的に取り組む姿勢が見られ、可能な限り呼吸困難を防ぐことができた。
Aさんからは、「教えてもらった呼吸法をすると動作も呼吸も楽になったのがわかったので、家に帰ってからも続けていけそうだ。家事なんかも、できることは自分でやりたい」と前向きな発言が聞かれた。退院後も外来で経過を観察しながら、急性増悪を招かないように注意する。
看護問題 例2 呼吸機能低下の防止のための生活管理(禁煙、呼吸器感染症の予防、栄養状態の改善)ができていない。
慢性閉塞性肺疾患(COPD)の進行や急性増悪を防ぐためには、禁煙、栄養状態の維持、感染防止が重要です。特に禁煙は治療の第一歩で、どの段階でも禁煙が不可欠ですが、禁煙が困難な場合には代替療法や禁煙専門外来を勧めるなどの対策が必要です。
また、食生活が乱れ食事摂取量が不十分だとエネルギー不足となり、筋力や活動性の低下から感染予防行動が十分に実施できなくなることもあります。
呼吸器感染症や急性増悪、病気の進行を防ぐために、生活習慣を整えていくことが必須となります。
評価日:退院前日
看護目標(期待される結果)
- 長期目標:禁煙の達成、感染予防行動の適切な実施、栄養状態の改善ができ、呼吸器感染症を起こさないよう自己管理ができる。 (評価予定日:退院後の外来受診時)
- 短期目標1:入院中に、退院後は禁煙の専門外来を受診することを決断する。(評価予定日:退院前日)
- 短期目標2:1日2000kcal以上の高たんぱくでバランスのよい食事を確実に摂取できる。(評価予定日:退院前日)
- 短期目標3:呼吸困難を起こすことなく口腔ケアや手洗い、入浴など清潔行動がとれる。(評価予定日:退院前日)
看護計画
観察計画(OP)
- 禁煙についての学習教材や話題を提供し、感想を尋ねAさんの禁煙に対する考えを明らかにする。
- 体重の増減、血液検査の推移
- 食事摂取状況の観察(食欲、摂取量)
- 自宅における食習慣、食事内容、嗜好、調理の状況など
- 口腔ケア、手洗い、入浴なÐの感染予防行動の実施状況と問題点
援助計画(CP)
- 過去の禁煙への試みを認め、失敗体験などの話の聴き役、相談相手となる。
- 禁煙の専門外来についての情報を提供する。
- 感染予防行動や食事摂取時には、労作度と呼吸機能に応じ、介助が必要な部分とAさんが自力で行う部分を見きわめながら、適宜援助する。
教育計画(EP)
- 必要なエネルギー量やたんぱく量、バランスの取れた食事摂取の必要性について理解を促し、1日当たり2000kcal以上を摂取できるようにする。
- 呼吸への負担なく、栄養補充できる食事作りの方法を指導する(座った状態での調理方法など)。
- 呼吸への負担なく感染予防行動がとれるよう呼吸訓練を指導する(歯磨きや洗面、入浴、更衣など、酸素飽和度をモニターし修得できるまで指導する)。
- 食事や禁煙、感染予防などは家族の理解と協力が必要であるため、一緒に指導する。
実施・評価(例)
呼吸訓練が進み、息切れなく動作が行えるようになり、感染予防行動も適切に行うことができるようになってきた。また、食事に対しては「自分で育てた野菜も食事に活かすといいんですね」などと関心が高まった様子が見られ、座った状態での調理の仕方も積極的に学ぼうとする姿勢が見られた。
禁煙については、「1人で何とか頑張らなければと思っていたけれど、プロが支えてくれるなら今度こそできそうな気がする」と、禁煙の専門外来を受診することを自ら申し出て、友人にも勧めたいと嬉しそうに話していた。
評価日:退院前日
看護問題 例3 呼吸機能低下が進行し、筋力低下や体動時の呼吸困難によって日常生活や活動範囲が狭まっている。
Aさんは、以前は趣味や友人との交流を活動的に行っていましたが、呼吸機能の低下のため、自宅で母親の世話や庭木の手入れ、妻との散歩などを楽しみとする生活を送っていました。しかし次第に力仕事が困難になり、家の中でテレビを見て過ごすなど、活動範囲が狭まっていきました。
活動性の低下は筋力を低下させ、呼吸機能をさらに低下させる危険性があります。また生活における楽しみが欠落することは、治療や生活習慣の改善にとってもよい効果が生まれないと考えられます。このため呼吸訓練を行い、活動性を高めながら、楽しんで趣味を行ったり、日常生活を送れるよう調整する必要があります。
看護目標(期待される結果)
- 長期目標:趣味や家事を息切れなく行い、活動性を向上させることができる。(評価予定日:退院後の外来受診時)
- 短期目標:呼吸法を身につけ、日常生活動作に活かすことができる。(評価予定日:退院前日)
看護計画
観察計画(OP)
- 1日の生活パターンや自宅の住環境など
- 呼吸困難が増強してしまい、行えない日常生活動作は何か
- 家族の協力体制
援助計画(CP)
- 日常生活行動が自立して行えるよう、呼吸訓練やリラクセーション法などを行う。
- 趣味の庭木の手入れは腰をかけて行ったり、力仕事は家族の協力を得て行うなど、調整する。
- かがむ動作や、手を挙げた姿勢での高いところの作業を楽に行える自助具などを紹介する。
教育計画(EP)
- 活動中の休憩のとり方など、疲労対策を検討・指導する。
- 家族も含め、ともに自宅での行動計画を立てる。
実施・評価(例)
退院後、Aさんが外来受診に訪れた際、「母の世話は妻と分担していますし、休みの日には息子が庭仕事を手伝ってくれています。たまに息が苦しくなることもありますが、呼吸法をやったりしています。妻と息子のおかげで、料理も庭仕事も以前のように楽しくできていますよ。庭で育てた野菜を食べたりして、調子が良くなっている気がします」と明るい表情が見られた。
評価日:外来受診日(退院後1週間)
基本的な看護問題とそれに対する標準的看護計画
症状に関連して生じやすい看護問題と実施する看護ケア
- 労作時呼吸困難があり、次第に活動範囲が狭められる ➡ 動かないことが筋力を一層低下させるため、呼吸リハビリテーションを行い、体動時に息切れしない呼吸方法や動作を身につける。
- 呼吸器感染症を併発しやすく、急性増悪によって呼吸困難が増強する恐れがある ➡ 口腔ケア(歯磨き)、手洗い、うがい、マスクの着用など、感染予防の方法を指導する。インフルエンザや肺炎球菌の予防接種うを受けるよう勧める。呼吸器感染症の原因となる生活行動の改善を図る。
- 食欲不振があり、栄養状態が低下しやすい ➡ 栄養確保の重要性を認識してもらい、高エネルギー・高たんぱくで、便秘を起こさない食事内容を指導する。
検査・診断に関連して生じやすい看護問題と実施する看護ケア
- 初期には自覚症状に乏しいため、受診行動に結びつかない ➡ 喫煙習慣がある成人に対しては、定期的に健康診断を受けるよう促す。
- 労作時呼吸困難を自覚して受診した場合、病気の進行に対する不安がある ➡ 禁煙、薬物療法、呼吸リハビリテーション、感染予防など、病気の悪化防止予防と改善方法を指導する。
治療・予後に関連して生じやすい看護問題と実施する看護ケア
- 急性増悪を繰り返し、呼吸機能や筋力の低下が進み、病気が重症化するおそれがある ➡ 息切れを起こしにくい日常生活行動を指導し、自立した生活を維持することで筋力低下を防ぐ。適切な薬物治療を行うとともに、栄養状態の維持に努める。
- 呼吸困難が重症化した場合、在宅酸素(HOT)が必要になる ➡ 各種機器類の適応基準やメリットを説明し、本人の呼吸機能にふさわしいものを選択できるように支援する。機器の管理方法や環境調整などについて指導する。
最後に
看護計画の立案って、とっても大変!基本の計画を活用しよう!
実習で接することのできるわずかな時間の中で、患者さんを理解し、患者さんの状況や特性をとらえ、「情報収集」、「アセスメント」、「看護診断」、「看護計画立案」するのは至難の業です。睡眠時間が削られ、心身共にボロボロ、早く週末が来ないかな、、、という学生さんの気持ち、よくわかります。
実習で患者さんに集中して関わるためにも、計画の立案に時間をかけすぎず、賢く時短しちゃいましょう。「基本の看護計画」を上手に応用して、患者さんに合わせた計画を立案し、実践に集中しましょう。実践からの学びは貴重です。多くの学びが得られ、充実した実習につながり(実習評価につながり)、自己成長の機会となります。疲れ切ってしまう前に、活用してくださいね。
なお、解剖生理、疾患、看護の基礎知識や患者さんの看護に必要な知識、技術は休日などにしっかりと学習しましょうね。
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