患者さんに優しい関心を向けること(奥が深い環境整備)

新人看護師・看護学生にもできる優しい援助
実は奥が深い環境整備。侮っていませんか?

看護学校で一番はじめに習う技術が環境整備。患者さんのベッド周りをきれいに整理整頓して、環境清拭用クロスで拭きとって、リネン類を整えて。患者さんの私物をもとの位置に戻したら終了。ナースコールのセッティングも忘れずに。環境整備が終了したことを患者さんに告げて、つぎの部屋へ・・・。

流れ作業のように次から次へとこなしているように見える看護技術かもしれません。でも、実はすごく奥が深いのです。

ベッド周りの環境に目を向けることで、患者さんの人柄や価値観、今まで生きてこられた歴史などを理解する手がかりが得られます。

エピソード:患者さんに優しい関心を向けること

癌の治療に化学療法があります。その副作用として脱毛が有名ですが、本当にごっそりと髪の毛が抜けてしまう方がいます。

実習で学生が担当していたCさんは化学療法を受けていました。学生は、Cさんに使用されている抗癌剤について学習していたので、副作用の脱毛があることを予測していました。実習先の病棟では実習開始後すぐに環境整備が始まります。学生はCさんのところに挨拶に行き、すぐそのCさんの環境整備に入らせてもらっていました。

ある日、環境整備に行った学生が、すぐにナースステーションに戻ってきて、私に言うのです。

Cさんの抜け毛がすごく多くて。どうしたらいいですか?

学生は、すごく動揺していました。学生の説明では何がどのように困っているのかよくわからなかったので、一緒にCさんの病室にいくことにしました。

Cさんはベッドサイドの椅子に座っていました。Cさんは、笑いながら「朝起きたら、髪の毛がごっそり抜け落ちちゃって。コロコロで一回きれいにしたけど、また抜けちゃってね。」と言います。ベッドを見ると、枕元に敷いてあるバスタオルや枕の上、シーツの上に白髪交じりの髪の毛がたくさん落ちていました。また、ベッド下やベッド柵とマットレスの間にも髪の毛が落ちていました。また、Cさんの頭髪がまだらにごっそりと抜けていました。

看護問題としては、“化学療法による脱毛に関連したボディイメージの変化”が挙げられるでしょうか。テキストには、この時期の看護として、ヘアケアの方法の指導やウイッグの提案、精神面のケアなどが挙げられていますし、学生もきちんと事前学習をしていました。しかし、抜け落ちた髪の毛が散乱しているベッド周りの状況と、Cさんの見た目の変化に衝撃を受け、学生はどうしたらよいかわからなくなってしまっている様子でした。

学生はとても動揺していましたが、Cさんは落ち着いているように感じられました。Cさんは、この状況を自分なりに受け止めていらっしゃるようだと考え、私は学生への対応を優先することにしました。学生を休憩室に連れていき、学生の思いを確認しました。学生は

Cさんに、なんて声をかけたらいいのかわかりません。あんなに沢山髪の毛が抜けてしまって。Cさんのお気持ちを考えると、つらいです。ベッドをきれいに整えなきゃいけないのはわかりますが、コロコロで髪の毛を取り除いて、ベッドがきれいになりましたよって言っていいのでしょうか。昨日まではCさんのカラダの一部分だったのに。

私は、この学生のCさんの気持ちを汲みとろうとする優しい姿勢を大事にしたいと思いました。また、この学生は、とても大事な学びを得ようとしていると感じました。

教員にこ

Cさんは脱毛によって見た目は変わってしまったかもしれないけど、Cさんの中身まで変わってしまったのかしら?

と学生に尋ねてみました。すると、学生は

いつも通りのCさんでした。私に笑顔でおはようって。今日もよろしくねって言ってくださいました。

教員にこ

何でいつも通りなのだと思う?

学生は考えながら、

Cさんは、治療にとても前向きです。治療で吐き気があっても、頑張って食事をとっています。癌を完治させたいって。早く家に帰りたいって、すごく頑張っています。

教員にこ

じゃあ、髪の毛がたくさん抜けてしまったのに、Cさんは何でいつも通りなのだろう。Cさんは、何でいつも頑張っているのかしら。Cさんにとって、髪の毛が抜けてしまうって、どんな意味があるのかな?

外見が変わってしまうことは、とても辛いことです。でも、Cさんにとって、自分の外見よりも大切なことがあるのだとしたら。たとえば、家族と少しでも長く一緒にいたい。過ごしたいと考えているのだとしたら。

もしかしたら、“化学療法が効いているかもしれない”って思っていらっしゃるかもしれません。

教員にこ

なるほどね。脱毛という副作用よりも、治療によって癌細胞への効果が得られているかもしれないという期待から、落ち着いていらっしゃるのかもしれないね。でも、Cさんが本当にそのように思っているのかは、お聴きしないとわからないよね。

このようなやりとりを続けているうちに、学生の気持ちも落ち着き、考えが整理できたようでした。

先生、Cさんのところに行ってきます。ベッド周りを整えさせてもらって、お話してきます。

Cさんのベッドサイドには、ご家族との写真、お孫さんの写真が飾られています。カレンダーには、お子さんやお孫さんの誕生日に印がつけられていました。ベッド周囲の環境から得られる情報は限られていますが、Cさんにとって、家族と一緒に生きることが闘病する上で最も重要だと考えているかもしれません。また、Cさんもご家族もCさんの外見の変化については重大な事として捉えていないのかもしれません。

まとめ

ベッド周りの環境に目を向けることで、患者さんの人柄や価値観、今まで生きてこられた人生などを理解する手がかりが得られます。患者さん自身に優しい関心を向けながら環境整備をすることが、患者さんに寄り添った援助につながってくるのではないでしょうか。

環境整備は、看護学生も新人看護師さんも一人でできる技術です。1人では何もできないと思わずに、自信をもってできる技術として、環境整備をがんばってみませんか。ぜひ、優しい気持ちで患者さんに寄り添った環境整備を行ってみてください。

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