その28:基礎看護実習 患者さんとのコミュニケーション指導①

看護教員にこの実習指導の実際

基礎看護実習、初日の指導案を解説します。

基本設定は、

基礎看護実習1(7日間)

実習目標:看護の対象を理解し、看護の実際を知る

実習内容:担当する患者さんとのコミュニケーション

     看護師と共に、看護援助を体験する

実習時間:8時30分~16時30分(昼休憩1時間)

です。

それぞれの看護学校や大学によって、先生方の考え方によって、実習での指導方法は様々だと思います。

これは、教員にこが、10年間実習指導を続けてきた中での、私なりの工夫が盛り込まれた指導方法です。

私自身の失敗や体験に基づいたものなので、参考までに、ということで、お願いいたします。

私が大事だと考えている以外にも、大切なことがあるかもしれませんが。

私の学びを看護教員や看護師さん、実習指導者の皆さんと共有でき、お役に立てたら嬉しいです。

学生が担当患者さんに初めて出会う場面の指導案

学生が初めて自分の担当患者さんに出会う場面です。

学生は、自分の担当患者さんがどのような方なのか、実際にお会いするまで大変緊張しています。

無口な方だったらどうしよう。

笑顔で挨拶を返してくださると、安心するな。

症状で辛そうだったらどうしよう。などなど。

様々な不安や期待を持ちながら、挨拶にいきます。

勇気があり、「行ってきます!!」と気合いをいれていく学生もいますが。

ナースステーションから出ても、廊下でずっとウロウロしている学生もいます。

教員にこ
教員にこ

私は、1年生の初めての実習では、必ず学生と一緒に患者さんのところに挨拶に行くようにしています。

それは、なぜか。

学生と患者さんとの初めての出会いの状況を確認し、学生と患者さんが関係性を築けるよう支援するためです。

また、患者さんとのコミュニケーションを、学生にどのように学ばせていけばよいのか、情報収集するためでもあります。

看護学校の先生方や、指導者さん、看護師さん達から、そこまで支援しないとダメですか?甘すぎるんじゃあないですか?

と、言われそうですが、患者さんのためにも、学生のためにも、私が一緒に行って挨拶したほうがいいなと思うようになったので、そうしています。(笑)

実は、学生が担当患者さんに初めて挨拶に行く前に、私はすでに、仕込みをしています。

どんな仕込みかというと、

学生よりも先に、学生の担当患者さんに、教員として挨拶をしてくることです。

そんな事?と思われるかもしれませんね。

実習指導者さんやベテランの看護師さんは、日々患者さん達と接しているので、

「この患者さんならこんな風に学生さんと接してくれるだろうな。」とか、

「この時期には、化学療法の副作用も落ち着いてきて、学生さんともお話しできそうかな。」など。

対象理解ができているので、患者さんの身体的状況や生活状況、価値観などもふまえ、1年生に合わせた患者さんの選定をしてくださいます。

指導者さんは、患者さんと学生がどのようなコミュニケーションを取りそうか、ある程度の予測ができているのです。(と、私は感じています。)

しかし、私は学生のコミュニケーションの傾向は予測できますが、患者さんについては、実習指導者さんから得た情報でしかわかりません。

臨床の看護師さんのコミュニケーションスキルは、とても高いです。

その高いコミュニケーションスキルを持った看護師さんの「学生さんも、大丈夫ですよ。」は、良い意味で期待してはいけないことを、数々の失敗から学びました。(笑)

なので、学生よりも一足先に学生の担当患者さんのところに行き、教員として挨拶をします。

教員にこ
教員にこ

おはようございます。

〇〇看護学校の教員のにこと申します。

今日から〇日まで、1年生の実習でお世話になります。

このあと、学生の△△が挨拶に来ると思います。

学生は、初めての実習で緊張していると思いますが、よろしくお願いいたします。

まずは、(時間もないので、)通り一遍の挨拶をするのみですが、実際にベッドサイドにいき、患者さんの顔を見て挨拶すると、指導者さんからいただいた情報に加えて、様々なことを観察し、感じることができます。

指導者さんから、「優しいおばあちゃんだから、大丈夫だと思いますよ。」

と言われていても、実際に患者さんのところに行ってみると、

Aさん:ベッド周りが整然と整っていて、とても几帳面な方なのかな。

Bさん:普通の声の大きさでは気づいてくれず、かなり大きな声で、耳元で話さないと聞こえない方なのだな。

ということがわかりました。

学生の挨拶の様子を、少し離れたところから見守っていると、

Aさんに対して:学生は緊張のためにベッド周りの様子が目に入らず、Aさんに近づくためにオーバーテーブルを動かしたのですが、元気な挨拶のあと、オーバーテーブルを元の位置に戻さずにベッドを離れました。(Aさんが自分で元の位置に戻していました。)

Bさんに対して:学生が「失礼します。」と声をかけましたが、Bさんの反応がありませんでした。学生は、もう一度「失礼します。」と声をかけましたが、やはり反応はありませんでした。学生は、私に「Bさんは眠っているようだったので、またあとで挨拶に行きたいと思います。」と言いました。

患者さんとのコミュニケーションで、1年生によくある場面ですし、取り上げるほどでもないと思われるかもしれませんが、それぞれの担当学生にとっては、とても大切な学びの場面です。

このまま、私が学生に何もアプローチしないと、

Aさんに挨拶した学生は、「緊張したけど、きちんと挨拶ができた。」・・よかった。という思いを抱いて終わり。

Bさんに挨拶した学生は、頻回に訪室し、Bさんが起きるまで様子をうかがうことになります。

Aさんは几帳面かも、Bさんは耳が遠いかも、という教員の気づきのように、学生も学生なりに自分自身で気づけるように、意図的に教員が介入しなければなりません。

学生に対するアプローチ方法は様々だと思います。

それこそ、学生の性格や態度、成績や学習量、実習への意気込みなどを様々に考慮する必要があるのかもしれませんが。

実習生一人ひとりに熟考していたら、時間が足りません。

なので、私は手っ取り早く、Aさんを担当していた学生には、このように尋ねました。

患者さんに挨拶できたか、何を言われたか、何に気づいたか確認する。

教員にこ
教員にこ

患者さんに挨拶できた?

なんて言われた?

です。普通・・・ですよね。

Aさんの担当学生は、

よろしくねっていわれました。

良かったです。

よかったね。。

教員にこ
教員にこ

挨拶に行って、何か、気がついたことあるかな?

という問いに対して、どんな答えが学生から返ってきてもいいのですが、

学生:「緊張していて、何も気がつかなかったです。」

➡ では、次に訪室する時は、どんなことを観察する?(もしくは、何を知りたい?)

学生:「寝ていらしたのに、起き上がってくださいました。」

➡ どんなふうに起き上がったのかな?柵につかまったの?腹筋をつかって?

学生:「髪型が整っていました。きちんとしていました。」

➡ いつも、整っているのかな。おしゃれな方ってこと?

ここまでのやりとりが、Aさんを担当する学生への、患者さんとのコミュニケーションの指導案になります。

学生は、このままだと「元気に挨拶できて良かった。」といった満足感で終わってしまうかもしれません。

でも、挨拶もコミュニケーションの重要な要素です。

そして、看護学生として実習に行き、患者さんを担当させていただきます。

今回の実習目標は、「看護の対象を理解し、看護の実際を知る」

実習内容は、「担当する患者さんとのコミュニケーションと、看護師と共に、看護援助を体験する」でした。

患者さんとのコミュニケーションも看護援助(技術)ですし、患者さんとのコミュニケーションからも看護の対象を理解しなければなりません。

「元気に挨拶できて良かった。」で終わってしまっては困るのです。

「元気に挨拶できてよかった。」で終わってしまう学生は、実習目標が意識できていない場合がほとんどです。

(ほとんどの学生が、緊張で意識できなくなっていますが。)

実習目標である、対象理解を意識させるようなアプローチが必要です。(上記の指導案のような。)

また、私が気がついたことを学生に気づかせるのではなく

私が気がついたことを学生に教えるのではなく

学生が気がついたこと、感じたこと、考えたことを広げたり深めたりできるような介入が重要ポイントです。

私が気づいたことを教えるのは簡単です。

でも、「Aさんはベッド周囲が整理されていることから、几帳面な方かもしれない。」という内容は、学生にとって一つの情報になってしまいます。

学生が自分の力でつかみ取った情報ではありません。

また、自分が苦労して得た情報ではないので、応用が利きません。

せっかく患者さんを担当しているのですから、学生には自分自身の力で一つひとつ情報を得ながら、対象理解を深めていってほしいのです。

教員が患者さんに挨拶している様子を学生に見てもらう。

Bさんを担当する学生に、

教員にこ
教員にこ

一緒にBさんのところに挨拶に行こうか。

私から声をかけてみてもいいかな?

と、声をかけ、「気がついたことがあったら、あとで教えてもらっていいかな。」と伝えておきます。

そして、Bさんを担当する学生の前で、Bさんに挨拶します。

教員にこ
教員にこ

Bさん、Bさん。

おはようございます。

先ほども挨拶させていただきました、看護学校の教員のにこです。

担当する学生と一緒に挨拶に来ました。

今、お時間を頂いてもよろしいですか。

そして、学生にもBさんに挨拶をしてもらいます。

Bさんとの会話が落ち着いたところで、学生とともに病室を後にします

学生とともにナースステーションで、振り返りをします。

教員にこ
教員にこ

しっかりと挨拶ができましたね。会話もできて良かったですね。

先生の挨拶や、Bさんとのやり取りをみて、気がついたことがあったら教えてくれる?

学生は、

先生が挨拶した時、最初の「Bさん」は普通の声の大きさでしたが、2回目の「Bさん」は、少し声が大きくなっていました。

また、2回目の時は、Bさんの手のあたりを触りながら、耳に近いところで声をかけていました。

ゆっくりとお話されていました。

学生は、「気がついたことがあったら、あとで教えてもらっていいかな。」という指示を守り、注意深く観察できていたようです。

私は、「最初にあなたが訪室したときは、Bさん、眠っているみたいって言っていたけど、今はどう思う?」

と、学生にたずねると、

「もしかしたら、聞こえていなかったのかもしれません。」

と、学生は言います。

「今度、Bさんとお話しする時には、どんな工夫ができそうかな?」

と聞くと、

もう少し、大きな声で、近いところから声をおかけしたいと思います。

びっくりさせてしまうといけないので、最初は様子を見ながら、声の大きさを加減したいと思います。

なるほど。学生は、教員のBさんへのアプローチやBさんの様子から、自分の力で様々な気づきを得たようです。

そして、コミュニケーションの工夫を考えることができました。

ここまでのやりとりが、Bさんを担当する学生への患者さんとのコミュニケーションの指導案になります。

なぜ、このような指導案になったかというと、

私がBさんに挨拶にいき、Bさんが耳が遠い方だということを体験を通して知っていたということ。

(どのくらいの位置から、どのくらいの声の大きさで話しかけるといいのか。声だけでなく、体に少し触れた方が、声が聞こえる方向がわかり、安心するようだ。など。)

また、Bさんを担当する学生のアプローチの仕方を実際に見ていたからです。

(学生は、小さめの声で、「失礼します。」と、2回言っただけでした。)

私は、学生にコミュニケーションの1つのモデルを示し、学生自身が自分のアプローチとの違いに気づけるように支援しました。

あとは、学生の頑張りを支援するのみです。

看護師さんが患者さんに挨拶している様子を、教員と学生が一緒に見学する。

先ほどは、教員にこが患者さんと挨拶をしてモデルを示しました。

今度は、看護師さんにモデルになっていただきます。

看護師さんには、「モデルになってください」とはお伝えしません。

「看護師さんの、患者さんとのコミュニケーションの様子を見学させてください。」とお伝えし、バイタルサイン測定の時など、看護師さんが患者さんのところに伺う時に、一緒についていきます。

やはり、私も教員になって長いので、苦手な疾患の患者さんとか、私が看護師として働いていた時には行っていなかった新しい治療を受けている患者さんが、学生の担当患者さんになった時には、学生と同じく、

「大丈夫かなぁ。お話し、出来るかなあ。」と不安になるのです。(苦笑)

そんな時には、私も学生と同じように、看護師さんに相談したり協力を得るわけです。

学生よりも人生経験が長い分、使えるものは使うし、図太いのです。

そして、看護師さんと患者さんのコミュニケーションの様子を学生と一緒に見させていただき、気づいたことや学ばせてもらったことを、自分の頭の中でどんどん整理していきます。

私は、あとでメモに書きだします。

そして、ナースステーションに戻ってきたら、学生とやり取りします。

Aさん、Bさんの担当学生とのやりとりと同じです。

学生が気がついたこと、感じたこと、考えたことを広げたり深めたりできるような介入をしていきます。

もしかしたら、学生には少しの気づきしかないかもしれませんが、それでいいんです。

患者さんへの挨拶の場面です。実習は始まったばかり。

やっと学生と患者さんが出会ったばかりで、私が学生にしたことと言えば、学生が患者さんと話しやすくするきっかけを作ったぐらいです。

これから学生が患者さんともっとお話をするようになってから、必要な時に、私自身の気づきを活用すればいいのです。

緊張している学生が学び取れる内容は限られています。

初日からあれもこれも学ばせたくなりますが、学生個々の様子を見ながらでいいと思います。

まとめ

今回は、「学生が担当患者さんに初めて出会う場面の指導案」の解説でした。

学生時代に出会った患者さんのことは、ずっと覚えているものですよね。

学生の患者さんとの出会いの場面を大切にしたいと思いますし、良い学びにつながってほしいと願っています。

学生の実習記録をみただけではよくわからなくても、実際に学生と患者さんとのやり取りをみてみると、なぜ会話が続かないのか、関係性が深まっていかないのかがわかります。

年を重ねたせいなのか、客観的に見ているからなのか、実習指導を10年続けているせいなのか。

私の経験が、新任の先生方や指導者さん、看護師さんのお役に立てたら幸いです。

これからも長くなりそうな気配ですが、日頃、ゆっくりお伝えできていなかったことを、解説できるようにしたいと思っています。

よろしくどうぞ、お付き合いください。

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