その29:基礎看護実習 患者さんとのコミュニケーション指導②

看護教員にこの実習指導の実際

基礎看護実習、初日の指導案を解説します。

基本設定は、

基礎看護実習1(7日間)

実習目標:看護の対象を理解し、看護の実際を知る

実習内容:担当する患者さんとのコミュニケーション

     看護師と共に、看護援助を体験する

実習時間:8時30分~16時30分(昼休憩1時間)

です。

それぞれの看護学校や大学によって、先生方の考え方によって、実習での指導方法は様々だと思います。

これは、教員にこが、10年間実習指導を続けてきた中での、私なりの工夫が盛り込まれた指導方法です。

私自身の失敗や体験に基づいたものなので、参考までに、ということで、お願いいたします。

私が大事だと考えている以外にも、大切なことがあるかもしれませんが。

私の学びを看護教員や看護師さん、実習指導者の皆さんと共有でき、お役に立てたら嬉しいです。

学生が担当患者さんと向き合う姿勢の指導案

学生が担当する患者さんに挨拶をした後の会話が大切なのですが。

ほとんどの学生は、

「人見知りで、人との会話に自信がありません。」

「初対面の相手との会話は、とても緊張します。」など、

初対面の患者さんとの会話に、不安や苦手意識を感じています。

初対面の会話の難しさは、「お互いを知らないこと」にあります。

一度でも会ったことがある人や親しい人であれば、お互いに相手の情報を少しは把握していますし、その人に合った配慮ができます。

ですが、初対面ではお互いのことを良く知らないため、まずは探り合いから始まるわけです。

また、ほとんどの人は、初対面の人に「良く見られたい、思われたい」「できれば好かれたい」と無意識に思うものです。

そうすると、いつもの自分より良く見せようとし、無理して空回りするという残念な結果に。

そのような経験をしてしまうと、「初対面での会話は難しい」という"苦手意識"が、ずっとついて回ることになります。

とはいえ、人との出会いは全て「初対面」から始まります。

学生の会話の苦手意識を少しでも減らし、学生にとっても患者さんにとっても、いい出会いにしたいですよね。

一体どうすればいいのでしょうか。

そもそも、なぜ学生は患者さんとコミュニケーションをとらないといけないの?

答え:「看護の対象を理解するため」です。看護を学ぶために実習しているのですから。(笑)

そして、ゆくゆくは看護の対象である患者さんを理解して、看護を実践するためです。

そのための最初の一歩として、また、今回の実習目標を達成するための手段の一つとして、患者さんとのコミュニケーションがあるわけです。

看護の対象を理解するためには、コミュニケーション以外にも、カルテからの情報収集、援助を通しての情報収集が必要です。また、患者さんのご家族や、看護師・多職種の方からの情報も重要になります。

対象理解のための情報収集はどこから?

  • 患者さんとのコミュニケーション
  • カルテからの情報収集(身体的・精神的・社会的状況、治療内容、訴えなど)
  • 援助を通して(清潔ケア、バイタルサイン測定、検査、治療など)
  • 患者さんのご家族や多職種から(看護師、医師、薬剤師、栄養士、理学療法士など)

様々な手段で情報を得ることができますが。

患者さんとのコミュニケーションでなければ得られない情報があるから、患者さんを理解することができないから、コミュニケーションが重要になるのです。

患者さんを理解するとは?(対象理解とは?)

「看護」は、「人を看る」ことです。

「人を看る」ということを、看護師さんは常日頃から意識しています。

「人を看る」ということは、「病気」をみるのではなく「病気になった方のこれまでの背景とこれからの人生」についても、患者さんやそのご家族とともに一緒に考えていくことが求められる、ということです。

病気を診るのは「医師」の仕事です。

看護師は、病気への対処だけではなく、患者さんの全体像を捉え、退院後の生活も見据えて関わっていく必要があります。

「看護」の定義

『看護とは、あらゆる場であらゆる年代の個人および家族、集団、コミュニティを対象に、対象がどのような健康状態であっても、独自にまたは他と協働して行われるケアの総体のことです。

看護には、健康増進および疾病予防、病気や障害を有する人々あるいは死に臨む人々のケアが含まれており、また、アドボカシーや環境安全の促進、研究、教育、健康政策策定への参画、患者・保健医療システムのマネージメントへの参与も、看護が果たすべき重要な役割です。』(ICN:国際看護協会)

つまり、看護の対象者がどんな環境や健康状態であっても社会生活へ戻れるように多職種と協力しながら、心身のケアをしたり、対象者の代弁者としての役割を果たすことが看護には求められる、ということです。

看護の対象は、病院に入院している患者さんだけではありません。

病気をもっている人が、病気を克服する、あるいは悪化しないようにする。

病気をもっていても、生き生きとした社会生活が送れる。

「死」に直面する人が、安らかに過ごせる。

健康な人が、健康を維持する、あるいはもっと健康になれるようにする。

このようなことを、その人の立場に立ってあらゆる年令・立場の人を対象に援助するのが、看護です。

そうだとしたら。

カルテからの情報だけでは、その人の立場に立って援助(看護)ることはできません。

患者さんと向き合い、コミュニケーションを通して、患者さんの立場を理解していかなければなりません。

看護学生は、20歳前後の方が多いと思います。

その20歳前後の学生が、患者さんの立場を理解しなければならないのです。

基礎看護実習なので、成人期から老年期の患者さんを担当すると思いますが、20歳前後の学生が、自分の倍以上を生きてきた患者さんの立場を理解しなければならないのです。

しかも、病気と闘っている患者さんです。大変な学習内容だとおもいませんか?

 

教員にこ
教員にこ

皆さんは、ヘレン・ケラーを知っていますか?

「三重苦を背負った奇跡の人」です。

様々な伝記、自叙伝がありますので、ご一読をお勧めします。

世界の貧困や差別、病気や障害に苦しむ人々を救済し、障害教育や福祉の発展に尽力した壮絶な人生を歩まれた方です。

著明な方であれば、書物などでその方の人生や価値観などが分かります。

しかし、学生の目の前にいる患者さんには、自叙伝はありません。カルテにも詳細はありません。

学生が、自分の力で患者さんの人生や価値観を紐解いていかなければならないのです。

患者さんのことがわからないからこそ、知ろう・わかろうとする「相手に向き合う姿勢」を大切にする。

学生は、初対面の患者さんに対してどのようにコミュニケーションを図ればよいのかわかりません。

  • 会話をすることが患者さんの負担になるのではないか
  • 質問されても何も答えられず沈黙してしまうのではないか
  • 返答を間違うことで患者さんの不安を増大させてしまうのではないか

などの思いがあるからです。

でも、1年生ならではの強みもあります。

「患者さんのために、何かしたい。頑張りたいという素直で優しい気持ちが強いということです。

その優しさを、素直に患者さんに向けてコミュニケーションを図ってもらいたいのです。

患者さんのために、学生ができることをするためには、患者さんを理解しなければなりません。

でも、前述したとおり、患者さんの人生や価値観を理解することは、大変なことです。

そのため、「患者さんを理解する」ことの基本として、「相手を理解することは不可能である」という前提を置きながらも。

わからないからこそ、知ろう・わかろうとする 「相手に向きあう姿勢」を大切にしてほしいのです。初めての実習だからこそ、患者さんに向き合う姿勢を大事に育んでほしいと思いますし、努力してほしいと考えます。

その知ろう・わかろうとする 「相手に向きあう姿勢」は、心の中で思っているだけでは患者さんに伝わりません。

勇気をだして、言葉や態度で示していく必要があります。

学生の思いや優しさを素直に患者さんに届けるためには、コミュニケーション上のポイントをいくつかおさえる必要があります。

それらについて、解説したいと思います。

「相手に向き合う姿勢」の基本

常に笑顔で接すること

笑顔というのは人の心を癒すのに最も効果的な方法です。

“もらい笑い”という言葉が存在するように、笑顔の人を見ると自然と心が穏やかになり、不安が取り除かれるだけでなく、物事を前向きに考えられるようになります。

反対に、強張った表情や険悪な表情はマイナスの作用を相手に伝えてしまい、気分の低下や消極性を生み出してしまいます。

そのため、常に笑顔で接することが大切です。

穏やかな声で話すこと

もらい笑顔と同様に、声の調子も相手に作用します。

看護師さんが患者さんに声をかける時の様子を思い出してみてください。

患者さんの症状や心の状態に合わせて、穏やかな声で話しかけていると思いませんか。

声が高いと快活、声が低いと陰鬱な印象を与えます。

また、話すスピードが早いと興奮、話すスピードが遅いと冷静な印象を与えます。

声が相手の耳に心地よく届くよう、患者さんの反応を見ながら。

声の高低が丁度よい穏やかな調子で、ゆっくりと話すよう心掛けてください。

親身になって傾聴すること

親身になって傾聴することで、相手は「ちゃんと自分の話を聞いてくれている」と安心します。

傾聴は、患者さんを知ろう・わかろうとする態度の表現でもあります。

患者さんの思いを知り、様々な情報を得るためにも役立つため、患者さんの症状や疲労感などに配慮しながら、心を患者さんに向けて傾聴するようにしましょう。

いかなる場面でも冷静に

人は仕草や表情の変化、声の調子などに敏感で、無意識的に反応します。

患者さん本人や患者さんの周りで緊急を要する事態が発生した際に、慌てた行動をみせてしまうと、患者さんは不安になってしまいます。

学生にとっての緊急事態は、滅多にないと思いますが。

学生カンファレンスの時間が迫っている、看護師さんへの報告の時間が迫っているなど、いかなる場面においても冷静に行動するよう心掛けてください。

十分に説明をすること

援助の目的や方法など、患者さんに十分に説明することも非常に大切です。

患者さんは、学生よりも自分の疾病や治療について念入りに調べ、知識を持っている場合があります。

学生なりに誠意をもって学習し、納得のいく説明がなければ、患者さんは学生に対して不信感を抱くかもしれません。

コミュニケーションを円滑に図るためにも、可能な範囲で十分に説明を行ってください。

また、看護師さんや教員に相談して説明内容を確認したり、説明が難しい時には看護師さんや教員に付き添ってもらうなど、患者さんに分かりやすく説明することが大切です。

一番重要!学生が患者さんの一番困っていること・つらいこと・不安なことを知り、何とかしたいと行動できるよう支援すること。

学生は健康な方と向き合うのではなく、何らかの病気で治療のために入院されている患者さんと向き合っています。

患者さんは、療養生活を送るうえで、以下のような困りごと、つらさ、不安を抱えていることが予測されます。

療養生活を送る患者さんの困りごと、つらさ、不安

  • 病気による症状や治療に伴う症状
  • 日常生活動作が思うようにできない
  • 予後に対する不安
  • 療養環境に対する不満(プライバシーなど)
  • 家族や友人から離れ、孤独感がある
  • 家族の日常生活への気がかり
  • 経済的な不安
  • 医療者に対する不満
  • 仕事上の気がかり、趣味などに取り組めない   など。

学生の、「患者さんのために、何かしたい。頑張りたいという素直で優しい気持ち」と。

「患者さんをしろう・わかろうとする姿勢を別々に考えるのではなく。

それぞれを活かしあえるような支援・指導を、指導者さんや教員のみなさんにはお願いしたいと思います。

看護師は、患者さんの一番つらいところ、困っていること、不安に寄り添える存在です。

1年生であったとしても、患者さんの一番つらいところに寄り添える看護学生であってほしいと思います。

学生が、担当患者さんの趣味やお孫さんへの思いを知ることができたとしても。

「排泄だけは、最期まで自分の力で行いたい」という、患者さんの尊厳・生き方に関わるような「ねがい」や「つらさ」に気づけなかったとしたら、どうでしょうか。

「看護の対象を理解する」という、実習目標が達成できたといえるでしょうか。

初めての実習ですし、今回は援助の実践を求められていませんが。

患者さんとのコミュニケーションを通して、「排泄だけは、最期まで自分の力で行いたい」という、思いを学生が知ることができたら。

看護師さんに報告したり、教員に相談したり、学生カンファレンスの中で話し合うことができます。

そして、患者さんの「排泄だけは、最期まで自分の力で行いたい」という思いに対して、学生主体での援助はできないかもしれませんが。

看護師さんが、患者さんの思いや学生の思いを汲みとって看護計画に活かしてくださるはずです。

学生自身が、

知識や技術が未熟であったとしても、患者さんのために、私にもできることがある。

看護チームの一員としてやれることがある。

と思えることが大切です。

また、このような過程(患者さんから情報を得て看護師に報告・相談し、看護師がその情報をもとに看護計画を追加修正して実践する。)を経験することが、実習目標でもある、「看護の実際を知る」ことにもつながります。

このように、患者さんと誠実に関わり、体験を通して得た学びは一生の宝物になります。

また、看護師になるというモチベーションの向上にもつながります。

まとめ

患者さんに対するコミュニケーションを苦手とするのは、学生だけでなく経験を重ねた看護師にも言えることです。

特に、ターミナル期の患者さんに対応が難しい質問を投げかけられた時や、不安によって患者さんから罵声を浴びせられた時など、しばしば悩まされます。

看護におけるコミュニケーションは、一生を通して学び続ける必要があります。

しかし、患者さんを怖がっていては、患者さんの本当のつらさをわかることができず、必要な看護ができません。

勇気をもって、患者さんと関わっていけるように学生を育てていきたいですね。

教員にこ
教員にこ

学生によくあるのが、患者さんとのコミュニケーションの本来の目的を忘れてしまうことです。

患者さんのところにお話に行き、

「担当した患者さんがお話好きな方で、長い時間、お話しできた。良かった。」

「趣味の話とか、ペットの話とか、色々な話題で盛り上がった。」

と、学生は笑顔で報告に来てくれます。

実習の最初の方はそれでいいのですが、

「患者さんに受け入れてもらえた。」

「好印象を持ってもらえたと感じる。」など、

関係性の構築や関係性の維持に視点があたりすぎてしまう学生がいます。

患者さんとの関係性を築くことも重要ですが、患者さんを理解し、得られた情報を看護の実践に活かすことが看護師には求められます。

この考え方を、学生にも少しずつ身につけてもらわなければいけません。

「患者さんと話す話題がなくなった。」

「お話しに行っても、沈黙が続くようになって気まずい。」

と言う学生は、いませんか?

 

今回は、「学生が担当患者さんに向き合う姿勢の指導案」の解説でした。

私の経験が、新任の先生方や指導者さん、看護師さんのお役に立てたら幸いです。

これからも長くなりそうです。

日頃、新任の先生方にお伝えできていなかったことを、解説できるようにしたいと思っています。

よろしくどうぞ、お付き合いください。

コメント

タイトルとURLをコピーしました