「患者さんとのコミュニケーション指導」シリーズが7回にわたってしまったので、ポイントを総まとめします。
内容をゆっくり確認されたい方は、各回へのリンクをそれぞれ貼っておきます。ご活用ください。
学生が担当患者さんに初めて出会う場面
その28:基礎看護実習 患者さんとのコミュニケーション指導①
学生よりも先に学生の担当患者さんに挨拶する。その後、学生と一緒に患者さんに挨拶に行く。
患者さんとのコミュニケーションを、学生にどのように学ばせていけばよいのか、情報収集するため。
学生と患者さんとの初めての出会いの状況を確認し、学生と患者さんが関係性を築けるよう支援するため。
学生が、患者さんとどんな会話をしたか、何に気づいたか確認する。
教員が学生よりも先に患者さんに挨拶し、気がついたことを整理しておく。
学生が、患者さんとの会話で気がついたこと、感じたこと、考えたことを確認する。
学生の気づきや考えを、広げたり深めるような介入をする。
教員が気がついたことや考えたことを教えたり、指導はしない。(後々の実習指導に役立てていく。)
教員が患者さんに挨拶したり会話している様子を学生に見てもらう。
学生にコミュニケーションの1つのモデルを示し、学生自身が自分のアプローチとの違いに気づけるように支援する。
モデルを示す前に、何に着目してもらいたいか、学生に明確に指示する。
- 会話中、気がついたことがあったら、あとで教えてください。
- 会話をする位置関係に着目してください。 など。
学生にモデルを示す前に、教員が患者さんと会話をしたり、学生と患者さんとの会話の状況を確認しておく。
看護師さんが患者さんに挨拶している様子を、教員と学生が一緒に見学する。
学生が、患者さんとの会話で気がついたこと、感じたこと、考えたことを確認する。
学生の気づきや考えを、広げたり深めるような介入をする。
学生が担当患者さんと向き合う姿勢
その29:基礎看護実習 患者さんとのコミュニケーション指導②
なぜ学生は患者さんとコミュニケーションをとらないといけないの?
「看護の対象を理解するため」。そして、看護を実践するため。
患者さんとのコミュニケーションでなければ得られない情報があるから。
患者さんを理解するとは?(対象理解とは?)
「看護」は、「人を看る」こと。「人を看る」ということは、「病気」をみるのではなく「病気になった方のこれまでの背景とこれからの人生」についても、患者さんやそのご家族とともに一緒に考えていくことが求められる。
看護の対象は、病院に入院している患者さんだけではない。病気をもっている人が、病気を克服する、あるいは悪化しないようにする。病気をもっていても、生き生きとした社会生活が送れる。「死」に直面する人が、安らかに過ごせる。健康な人が、健康を維持する、あるいはもっと健康になれるようにする。このようなことを、その人の立場に立ってあらゆる年令・立場の人を対象に援助するのが、看護。
そのため、カルテからの情報だけでは、その人の立場に立って援助(看護)することはできない。患者さんと向き合い、コミュニケーションを通して、患者さんの立場を理解していかなければならない。
患者さんのことがわからないからこそ、知ろう・わかろうとする「相手に向き合う姿勢」を大切にする。
学生は患者さんとのコミュニケーションに不安が大きいが、1年生ならではの「患者さんのために、何かしたい。頑張りたいという素直で優しい気持ち」が強い。
「患者さんを理解する」ことの基本として、「相手を理解することは不可能である」という前提が必要。
わからないからこそ、知ろう・わかろうとする 「相手に向きあう姿勢」が大切。初めての実習だからこそ、患者さんに向き合う姿勢を大事に育んでほしい。
「相手に向き合う姿勢」の基本
常に笑顔で接すること
穏やかな声で話すこと
声が相手の耳に心地よく届くよう、患者さんの反応を見ながら
親身になって傾聴すること
いかなる場面でも冷静に
十分に説明をすること
一番重要!学生が患者さんの一番困っていること・つらいこと・不安なことを知り、何とかしたいと行動できるよう支援すること。
患者さんは療養生活を送るうえで、様々なつらさ、不安を抱えていることが予測される。
学生の、「患者さんのために、何かしたい。頑張りたいという素直で優しい気持ち」と「患者さんをしろう・わかろうとする姿勢」を別々に考えるのではなく、それぞれを活かしあえるような支援・指導が必要。
1年生であったとしても、患者さんの一番つらいところに寄り添える看護学生であってほしい。それを支援するのが教員や指導者さん。
知識や技術が未熟であったとしても、学生が、「患者さんのために私にもできることがある。看護チームの一員としてやれることがある。」と思えることが大切。
学生が患者さんから情報を得て看護師に報告・相談し、看護師がその情報をもとに看護計画を追加修正して実践することが、実習目標でもある、「看護の実際を知る」ことにもつながる。
患者さんと良好な関係が築きやすくなる距離感で会話しているかな?
その30:基礎看護実習 患者さんとのコミュニケーション指導③
患者さんにも、学生にも、パーソナルスペースがある。
他人に近付かれると不快に感じる空間のこと。パーソナルスペースは親しい人には狭く、関係が浅い人には広くなる。パーソナルスペースに侵入されると「不快」に感じる。
学生は、看護師さんの行動を真似て患者さんとのコミュニケーションを頑張ろうとするが、うまくいかず、コミュニケーションに苦手意識を持ったまま実習を終えてしまうことがある。
患者さんが不快に思う距離感(患者さんのパーソナルスペース)を把握していない学生がいる。
学生個々のパーソナルスペースに配慮したコミュニケーション上の助言が必要。
患者さんが不快に思う距離感を把握していない学生への支援
一般的に、パーソナルスペースには4つの距離があるが、学生が患者さんと関係性ができていない状況で会話をするときは、社会距離(120~350㎝)から始めるとよい。
緊張して患者さんのパーソナルスペースに入ってしまっている学生に対しては、教員が客観的に観察できたことを、良い悪いの判断は加えずに伝える。学生が自分で振り返れるように促す。
なかなか気づけない場合は、気づけるように具体的に指導を加えていく。(「相手のことが良くわからないのに、近いところで話しかけられたら、あなたはどう思う?」、「さっき、あなたと患者さんが話していた距離感は、あなたの負担になっていませんでしたか?」など。)
「患者さんにとって不快な距離感ではなかったか」、「学生自身の負担となる距離感ではなかったか」、といった視点で助言する。
学生が、「次は、そうしてみよう!」と、気楽に、そしてすぐに取り組めるような助言を意識する。
パーソナルスペースが狭い傾向の学生への支援
パーソナルスペースが狭い傾向の学生は、基本的に人と接するときの距離感が近い。
学生の特徴としては、「社交的」、「自分に自信がある」、「客観的に物事を考える」、「外への関心が強い」「異性の友達が多い」、などがある。実習でも積極性がある。
自分のパーソナルスペースが狭いため、相手のパーソナルスペースに必要以上に踏み込んでしまう可能性がある。
一度患者さんに不快感を与えてしまうと、関係がギクシャクしたり嫌悪感を抱かれる原因にもなる。
パーソナルスペースが広い傾向の学生への支援
パーソナルスペースが広い学生は、基本的に人と接するときの距離感が遠い。
学生の特徴としては、「神経質」、「内向的な性格」、「自分に自信がない」、「人見知り」、「集団行動が苦手」などがある。実習中の行動も消極的に見え、警戒心が強くなりがち。
しかし、患者さんや看護師さんと接する時には、相手のことをよく考えて、慎重に言葉を選びながら会話をすることができる。
パーソナルスペースが狭い学生とは違い、他の学生や看護師さんの前では助言しない。自分に自信がなく、他人と比べられるのを嫌がる傾向があるため。
教員がモデルを示したり、学生と一緒に患者さんと会話をしてみるなど、出来ていることを認めながら、少しずつ自信をつけてもらうなど、時間をかけた丁寧な支援が必要になる。
パーソナルスペースは、あくまでも目安です。
患者さんのパーソナルスペースに、不用意に踏み込んでしまうと、
- 嫌い・苦手だと思われる
- セクハラになってしまう可能性がある
- 人間関係のトラブルに発展する可能性がある
- 好意があると思われる という恐れもある。
患者さんと良好な関係を築いていくためには、同じことを繰り返さないことが重要。
患者さんが気持ちを話しやすい位置・場所で会話しているかな?
その31:基礎看護実習 患者さんとのコミュニケーション指導④
私が観察した学生と患者さんの残念な位置関係
患者さんがベッドで臥床している。
- 学生はベッドの足もとから立位で声をかけている。
- オーバーテーブルがあるため、学生はベッドの足元にある椅子に座り、患者さんに声をかけている。
- 患者さんは右手に点滴をしているため、学生はベッドの足元にある椅子に座り、点滴スタンドをはさんで患者さんに声をかけている。
- 学生は患者さんの枕元で床に立膝になり、ベッド柵をはさんで声をかけている。
患者さんがベッド上で座位になっている。
- 学生は真正面で患者さんと向き合い、椅子に座って会話している。
右耳がよく聞こえない臥床している患者さんに対して
- 学生は右側から話しかけている。左側のベッドには違う患者さんがいらっしゃった。
患者さんと会話をする時の最適の位置:斜め45度の位置
学生と患者さんの目線がずっと合うことはなく、自然な会話を生みやすい。表情を見たいときには表情を見ることができる。
学生の正面に誰もいないので、学生の目線は自分の好きな方向に飛ばしておける。また、自分だけのプライベートな空間が確保されているという安心感が得られる。
出来れば避けてほしい患者さんと会話をする時の位置
学生が患者さんの真正面に座る
学生が患者さんの真横に座る
先入観を持たずに、患者さんに何が起こっているのか、学生自身が自分の五感を活用して情報を得る
その32:基礎看護実習 患者さんとのコミュニケーション指導⑤
学生が感じた気がかり(気づき)を理解し、学生と患者さんの状況を把握する。
患者さんに対する学生なりの気づきがあった時が、教員や指導者さんや看護師さんの出番。
私(教員)の場合は、患者さんの情報をほとんど持っていないという強みがあるので、その強みを最大限に活かしていく。
教員も看護チームの一員として、協力できることはないか、助言できることはないかというスタンスで、学生の話を聴く。学生が自分で考えを整理できるように導いていく。
また、教員も一緒に患者さんのところに行き、学生の情報と、私自身が確認した患者さんの様子とが一致するかどうか確認する。
学生と患者さんの関係性についても確認する。
学生と患者さんの関係性に問題がありそうな時は、再度、患者さんのところに伺い、お話を聴く。
患者さんに何が起こっているのか、学生自身が自分の五感を活用することを学ぶ。
学生が自分の五感を活用して得た情報を、大切に扱うことが重要。
カルテの情報と学生が得た情報を比べたときに、学生が得る情報は重要度や優先順位が低いかもしれない。が、学校で学んだ知識や技術を活用し、学生自身の力で患者さんの気がかりに感じた事の原因を解き明かす努力をすることが必要。
患者さんに、「今、何が起こっているのか」がわからないからこそ、知ろう・わかろうと必死になることを優先させることの方が、患者さんに寄り添える看護師の育成につながる。
五感を使うトレーニングを重ねていくと、最終的には、看護師さんが時折おっしゃる、「〇〇さん、なんだかいつもと様子が違うんだよね。先生に採血の指示もらえないかな?」のような、看護師ならではの、患者さんが「いつもと違う」といった確信を得た気づきが得られるようになる。
学生自身の体験と患者さんの体験を重ねて考えてみよう。患者さんを理解する(わかる)ための重要ポイント
その33:基礎看護実習 患者さんとのコミュニケーション指導⑥
「出来事」は「事実」と「感情」がセット。「事実」→「感情」の順に焦点をあてる。
表情や態度などの「言葉にならないことば」の方が、私たちの心に届く(響く)場合もある。
そうなった経緯や背景は何か、患者さんが今まで生きてきた人生での出来事や、現在の生活に視点を当ててお話を聴いてみる。
現在の生活や、今までの人生の出来事からわかることはないかと、じっくりと患者さんの人生の物語を聴く。
患者さんの体験と、学生自身の体験とを重ねて考えてみる。
繰り返し努力して患者さんの物語を聴いていくことで、自分の体験と患者さんの体験を重ねて考える ことのできる感性が育まれていく。
教員や指導者さん、看護師さんや実習グループのメンバーなど、看護チーム全員の人生や体験からの学びを最大限に活用していく必要がある。
教員や指導者さんを含めた看護グループメンバーの様々な体験を活用することで、学生の持っている情報を再構成し、患者さんはこのような思いや感情をお持ちだったのかなという「見立て」をし、「対象理解」を深めていける。
患者さんをわかる・理解するということは、「How to」によって学べる(身につく)ものではない。
患者さんと向き合い、患者さんの人生や現在の生活・物語を傾聴し、学生自身の体験と重ね、自分の事として考える感性も育んでいくことが重要。
まとめ
臨床で働いていた時は、点滴交換をしながら、清潔ケアをしながら、患者さんと天気の話、料理の話、子どもの話などをできるだけするようにしていましたが。
なぜ、そのような世間話が大切だったのか、看護教員になり、学生に実習指導をするようになって、自信をもって言語化することができるようになりました。
あらためて、看護とは、看護の対象となる方々の今までの人生や、今現在、そして、これからの人生を紡いでいく手助けをするという、とてもやりがいのある仕事だなあと思います。
少しでも、看護教員や指導者さん、看護師さん達の学生指導に役立てられるといいなあと思っています。
まとめと言いながら、長くなってしまいました。
次回は、カンファレンス運営について、解説したいと思います。
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