その25:基礎看護実習 初日の指導案④

看護教員にこの実習指導の実際

基礎看護実習、初日の指導案を解説します。

基本設定は、

基礎看護実習1(7日間)

実習目標:看護の対象を理解し、看護の実際を知る

実習内容:担当する患者さんとのコミュニケーション

     看護師と共に、看護援助を体験する

実習時間:8時30分~16時30分(昼休憩1時間)

です。

それぞれの看護学校や大学によって、先生方の考え方によって、実習での指導方法は様々だと思います。

これは、教員にこが、10年間実習指導を続けてきた中での、私なりの工夫が盛り込まれた指導方法です。

私自身の失敗や体験に基づいたものなので、参考までに、ということで、お願いいたします。

私が大事だと考えている以外にも、大切なことがあるかもしれませんが。

私の学びを看護教員や看護師さん、実習指導者の皆さんと共有でき、お役に立てたら嬉しいです。

「病棟オリエンテーションを受ける」5番からの指導案

「病棟オリエンテーションを受ける」ところからの指導案。

今回は、5番から解説します。

病棟オリエンテーションを受ける

  1. 場所の準備
  2. 自己紹介
  3. 病棟紹介
  4. 病棟案内
  5. 私物の管理
  6. 個人情報の管理
  7. 感染対策
  8. 危機管理
  9. 体調管理
  10. 質問・体調確認

順を追って解説します。

私物の管理

ここでの私物とは、

  • 患者さんの私物
  • 学生の私物

についてです。

患者さんの私物の管理について

学生は、授業などで患者さんの私物の取り扱いについて学びます。

看護学校に入って最初に学ぶ看護技術が環境整備ですが、ベッドメイキングができたり、環境清拭ができればよいというものではありません。

患者さんそれぞれに適した生活しやすい療養環境を整えながら、安全やプライバシーに配慮する必要があります。

私は基礎看護学の授業も担当していましたが、環境整備の演習をする時に、

  • わざとティッシュに包んだ入れ歯をオーバーテーブルの上に置く。
  • 枕の下に、ハンカチに包んだお金を隠しておく。

など、臨床の場面であるかもしれない状況を設定していました。

学生は素直なので、

テーブルの上のゴミ、捨てておきますねー。

と、患者役(教員)に丁寧に声をかけ、入れ歯をゴミ箱に捨ててしまったり。

お金が包んであるハンカチを発見しても、お金に気づかずに床頭台の上に置いたままベッドを離れてしまったり。

わかりやすく、トラップに引っ掛かってくれました。(笑)

学生の実習中の事故報告として、

例1:病衣のポケットに千円札

学生が患者さんの寝衣交換のお手伝いをして、病衣を新しいものに交換しました。

学生は患者さんが着ていた病衣のポケットに何か入っているか確認せず、古い病衣をリネン置き場に片付けました。

後から、患者さんに、「病衣のポケットにお金が入っていなかった?」と言われ、看護師さんに報告して一緒にリネン入れの病衣を探しました。

病衣のポケットに千円札が入っていました・・・。

例2:iPadを落として破損

学生が、多床室の環境整備にはいらせてもらいました。

学生がベッドサイドの環境清拭をしていたところ、カーテン越しに学生の臀部のあたりで隣のベッドのオーバーテーブルに勢いよくぶつかってしまいました。

物が落ちる音がしたので、隣のベッドに急いで行ってみると、iPadが床に落ちて破損していました。

といったことが、実際にありました。

また、自分では動けない患者さんに、「新聞を買ってきてほしい」と頼まれ、学生が現金を預かってしまったり。

意思の疎通が難しい患者さんのオムツ交換をする時に、患者さんに断りもなくベッドサイドの棚を開けてオムツやおしりふきを取り出してしまったり。

学生自身の注意力や知識不足などの要因も大きいですが、看護師さんや医療スタッフの行動を見よう見まねで行動してしまっていることも多々あります。

学校で学んでいても、知識レベルのことであって、実習での看護実践につながるとは限りません。

特に1年生は、「患者さんの療養環境を生活の場ととらえ、プライバシーに配慮しながら関わらなければならない」と、頭では理解していたとしても、とっさの行動として患者さんの私物の紛失や破損、プライバシーへの配慮不足につながる恐れがあります。

オリエンテーションの際に、指導者さんが、病棟で実際にあった学生の事故事例に触れるなど、

折に触れ、実習グループ全体でヒヤリ・ハット事例などを共有しながら実習を進めていく必要があります。

また、このような事故は、学生と患者さんとの信頼関係の構築に影響を及ぼす恐れもあります。

このような事が起こらないことが一番ですが、万が一、起こってしまった場合の対応についても、実習開始前にはオリエンテーションをしておく必要があります。

(当校の場合は、実習調整者が学年全体に指導しています。)

学生の私物管理について

学生が常に持ち歩いているものは、スマートフォンです。

学校の授業中に着信音がすることがあり、私もたびたび注意します。

もちろん、実習に行くときには、実習バッグの中にスマホは入れない、実習場に持ち込まないという約束になっていますが、

持ち歩くのが当たり前になっていると、意識せずに実習ユニフォームのポケットにスマホが入っており、気づかずに実習をしていた、ということもあるかもしれません。

(実際にあったのですが・・・。)

実習施設との決まり事として、個人情報を適切に取り扱うというものがあります。

その前提として、実習に必要なものだけを持参する必要があります。

実習中に、意図せずに持ち込んでしまったスマホから着信音が聞こえたらどうでしょうか。

ナースステーション内で着信音が響いたら。

患者さんへのケア中に着信音がしたら。

様々な誤解を受け、実習態度を疑問視され、批判されるかもしれません。

さらには、患者さんの個人情報を撮影したり録音しているかもしれない、などと疑われるかもしれません。

病棟のオリエンテーションだからこそ、「もちろん、みんなは大丈夫だよね。」という指導者さんからのなげかけが、効果的な注意喚起になるかもしれませんね。

スマートフォン以外にも、学生の実習バッグを収納する鍵のかからない棚に、多額のお金の入った財布をいれてあるとか、アパートの鍵も入っているとか。

病院施設は、不特定多数の人間が出入りする場所です。

実習が初めての1年生は、いくら実習前に言われていたとしても、他人事のように感じています。

実際に行ってみて、「怖いな、気をつけなくちゃ。」と感じます。

学生自身の私物管理も徹底するよう、指導が必要です。

(実習に慣れてくれば、できるようになります。)

個人情報の管理

多種多様な個人情報を日常的に取り扱う看護師。

看護師としての経験が長くなれば長くなるほど、患者さん達の個人情報を日常的に取り扱う感覚に慣れていきます。

しかし、1年生は、医療スタッフの会話を聞き、患者さんのカルテを見て、こんなことまで看護師さんたちは患者さんの個人情報を知っているのかと、衝撃を受けます。

患者さんのご家族でさえ知らないような患者さんの個人情報を、看護師という資格がある赤の他人が、ご家族よりも色々と知っているのです。

学生は、個人情報の取扱いに気をつけようとするのですが、初めての実習であり、不安や緊張、実習に慣れていないために、不適切な言動をとりがちです。

具体例とともに、個人情報流出を防ぐための予防策を解説したいと思います。

事例1:印刷物やメモを放置する

実習記録やバイタルサインを書いたメモ帳、オリエンテーション用紙など、個人情報が記載された用紙を、患者さんのベッドサイドや、ワゴン上、ナースステーション内の机の上に置いたまま離れる。

予防策

  • 実習記録はナースステーションから持ち出さない。記録中に看護師さんや患者さんから呼ばれた時は、近くにいる学生に渡して片付けてもらう。少し時間がかかっても、実習記録をしまってから動く。
  • 実習記録用紙に記録する時も、必ず実習ファイルに綴じたままにしておく。実習記録用紙を1枚だけファイルから外すようなことはしない。
  • メモ帳がユニフォームから離れないように、ストラップでつなげておく。

事例2:実習記録用紙やメモを、個人情報が特定される状態で破棄する

個人情報が記載された実習記録用紙やメモ帳を、そのままゴミ箱に破棄した

予防策

  • いらなくなった実習記録用紙やメモ帳を破棄する際は、シュレッダーにかける。
  • 氏名や年齢、病室番号などは、記録しない。略語などを用いて、個人が特定されないようにする。

事例3:印刷物やメモ等の紛失

個人情報が記載された実習記録用紙やメモ帳を、実習中に紛失した
レポートを作成するため、USBに患者データを保管していて紛失した

予防策

  • 実習記録用紙を何枚持っているか、把握しておく。
  • 実習記録用紙はファイルに挟んで管理することを学生全員で統一する。
  • 実習終了時に、グループメンバー全員で、実習ファイルと実習記録用紙、メモ帳がそろっていることを確認する。
  • 不要な実習記録用紙は持ち歩かない。
  • 患者を特定できる状態で患者情報を保管しない。USBに保管する場合は、パスワードによるロックをかける。

事例4:カルテの無断閲覧

実習に関係ない患者さんのカルテを閲覧する

例)「この病棟に、高校のときの友達のお母さんが入院したんだって。どんな病気なんだろう?」

予防策

  • 実習の範囲を超えたカルテを閲覧しない
  • 電子カルテを見終わったら、必ずログアウトしてから席を離れる。ログインしたままにし、他者が閲覧することのないようにする。

事例5:周囲に関係者以外の人がいる場面での会話

病院内や登校途中で実習や患者さんに関連する話をする
例)「〇〇さんの担当患者さん、不穏で大変だったみたいだよ。」
「看護師の〇〇さんの指導が厳しいらしいよ。」

予防策

  • 患者さんとの関わりや実習のことで、困ったり相談したいことがあった場合は、カンファレンスで解決する。また、実習中に教員や指導者さん、看護師さんに相談して解決してから実習を終了する。
  • 院内外問わず、誰が聞いているかわからないため、患者さんに関連する会話は避ける。
  • 家族と実習の話をするときにも、個人名や病名が特定できるような会話は避ける

上記事例の5つが、学生が起こしやすい事故事例かと思います。

初めての実習なので、みんなで声をかけあい気をつけないと、実習記録を広げたまま席を離れたり、パソコンでカルテを閲覧した状態のまま、看護師さんに呼ばれて席を離れたりしてしまいます。

実習メンバー同士の関係性ができていないと「あっ・・!」と思っても、指摘することができないこともあります。

ただ、初めての実習で、学生はこのような失敗を起こしやすい傾向があるとわかっていれば。

また、病棟スタッフの方々も、学生の傾向がわかっていれば、学生を呼んだときに、

「学生の〇〇さん、これからケアにいくよ。カルテは閉じたかな?」と、注意喚起してくださるかも?しれません。

病棟の方々に協力を求めすぎでしょうか。

3年生であれば、当然できてほしいことですが、初実習の1年生に対しては、丁寧に接していただけると、教員としては、大変ありがたいです。

まとめ

今回は、病棟オリエンテーションを受けるの、

5.私物の管理

6.個人情報の管理

について、解説しました。

病棟オリエンテーションの中で、指導者さんに実際にカルテを見ながら説明してもらったり。

学生がメモを取っている様子を見て、「イニシャルと病室番号だと患者の〇〇さんだとわかってしまうから、Aさん、Bさんと書いてください。」などと指導してもらえると。

学生はハッとして、個人情報の保護って、そういうことなんだなあと腑に落ちたりします。

指導案というよりは、私の覚え書きというか、新人の看護教員や指導者さんに向けて説明するような語りになっていますね。

日頃、新任の先生方や指導者さんにお伝えしたいと思っていたことを。

あとからでも、落ち着いて、何回でも見返せるように残せていけたらと思っています。

あと、私の実習指導の振り返りにもなっています。

10年教員をしていますが、このように文章に残すことによって、学びなおすことが沢山出てきます。

学生と共に学ぶ姿勢を大切にしていきたいですね。

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