その26:基礎看護実習 初日の指導案⑤

看護教員にこの実習指導の実際

基礎看護実習、初日の指導案を解説します。

基本設定は、

基礎看護実習1(7日間)

実習目標:看護の対象を理解し、看護の実際を知る

実習内容:担当する患者さんとのコミュニケーション

     看護師と共に、看護援助を体験する

実習時間:8時30分~16時30分(昼休憩1時間)

です。

それぞれの看護学校や大学によって、先生方の考え方によって、実習での指導方法は様々だと思います。

これは、教員にこが、10年間実習指導を続けてきた中での、私なりの工夫が盛り込まれた指導方法です。

私自身の失敗や体験に基づいたものなので、参考までに、ということで、お願いいたします。

私が大事だと考えている以外にも、大切なことがあるかもしれませんが。

私の学びを看護教員や看護師さん、実習指導者の皆さんと共有でき、お役に立てたら嬉しいです。

「病棟オリエンテーションを受ける」7番からの指導案

「病棟オリエンテーションを受ける」ところからの指導案。

今回は、7番から解説します。

病棟オリエンテーションを受ける

  1. 場所の準備
  2. 自己紹介
  3. 病棟紹介
  4. 病棟案内
  5. 私物の管理
  6. 個人情報の管理
  7. 感染対策
  8. 危機管理
  9. 体調管理
  10. 質問・体調確認

感染対策

報告・相談できる体制づくり

コロナ禍の状況において、実習開始後も感染予防対策は徹底しなければなりません。

しかし、実習中の学生は不安や緊張・慣れない環境によるストレス、実習記録などの課題に取り組む中で睡眠不足に陥りやすく、体調を崩しやすいといえます。

食欲不振や腹痛・下痢などの症状が、ストレスによるものなのか。

頭痛や微熱、めまいなどの症状が、睡眠不足によるものなのか。生理などによるものなのか。

判断が難しい場合もあります。

ただ、学生の自己判断に任せてしまうと、取り返しのつかないこともあります。

現状で一番危険なのが、新型コロナウイルス感染症に罹患していた場合です。

教員は、当該学生だけでなく、実習グループの学生全員、その学生が関わらせていただいている患者さん、実習病棟の患者さん達やスタッフ全員に療養上・職務遂行上の影響が及ばないように細心の配慮をしなければなりません。

場合によっては、実習中止の判断を検討しなければなりません。

速やかに対応するために、私が心がけていることは、報告・相談できる体制づくりです。

  • 学生が、自分の気になる症状を、教員にすぐに相談できる。実習指導者さんに相談できる。
  • 学生が、実習グループの友人の気になる様子を、教員にすぐに相談できる。実習指導者さんに相談できる。
  • 教員が、学生や学生が担当している患者さんの気になる症状について、実習指導者や病棟の管理者に相談できる。
  • 指導者さんが、学生や学生が担当している患者さんの気になる症状について、教員や病棟の管理者に相談できる。
  • 教員や指導者、病棟管理者が、学生や学生が担当している患者さんの気になる症状について、実習施設の感染管理担当者に相談できる。
  • 教員や学校責任者が、実習施設の感染管理担当者に実習の継続や中止を相談できる。

学生は、実習前にオリエンテーションを受けているとはいえ、自分の行動が、患者さんや病棟、病院施設や実習全体にどのような影響を及ぼすのか、リアルにイメージができません。

また、病態生理学などの授業が進んでいない時期なので、日常生活動作が自立している患者さんであったとしても、検査データや使用薬剤などから、感染リスクが高いとか、貧血による転倒転落リスクが高いなどのアセスメントができません。

学生は、

「少しのどが痛いけど、空気が乾燥しているせいかな。」

「微熱があるけど、走って登校したからかもしれない。」

と、自己判断で様子を見てしまうこともありますし。

「今、休んでしまったら、患者さんとお話ができず、情報が取れない・・・。」

などと、自分の実習状況から、症状を隠しながら実習を続けてしまうかもしれません。

実習開始前から教員が学生と関係性を構築しておけば、学生も教員に相談しやすいと思いますが。

実習中、教員は常に学生のそばにいるわけではありません。

学生は、気がかりを自分の判断で指導者さんや病棟のスタッフに相談しなければなりません。

そのために、指導者さんは病棟のオリエンテーションで、

  • 学生や学生が担当する患者さんだけでなく、病棟の患者さん全員を守り、療養環境や看護体制を維持するため。
  • 学生の学習環境を整えていくため。

などの、報告・相談の重要性を学生に説明する必要があります。

また、教員や実習指導者さんは、気がかりな状況を自分のなかにとどめず、学校管理者や病棟責任者、実習施設の感染管理担当者に速やかに相談し、対応していくことが重要です。

感染拡大防止のための確実な標準予防策の実施

学生は、実習開始前に、基本的な看護技術を習得しています。

標準予防策は、看護技術の基本であり、入学してすぐに習う技術でもあります。

技術試験を実施している学校もあるのではないでしょうか。

しかし、「学校で技術試験を実施して合格した学生だから大丈夫」、ということはまずありません。

学校の施設、備品を使うからできるのであって、病院施設でできるとは限りません。

なので、指導者さんには、病院施設の備品を使用した標準予防策の実施を、学生と一緒にやってもらいたいのです。

水道の蛇口が違うだけで、学生は緊張します。

防護用具のエプロンの色や手袋の感触が違うだけでも緊張します。

でも、1回指導者さんと標準予防策を実施するだけで、学生は安心します。

「場所やモノが少し違うだけで、基本は学校で習ったものと同じだ。」と気づきます。

また、標準予防策が曖昧だった学生も、一度一緒にやると、確実にできるようになりますし、

「患者さんを守るのは、私なんだ。」という自覚も芽生えます。

さらに、使用したエプロンや手袋をどのように処理すればいいのか。感染拡大防止の視点で指導してくださると、1年生であっても、医療従事者の一員としての責任ある行動が求められていることを実感すると思います。

病棟の感染経路別予防策への対応

実習施設や実習病院には、呼吸器感染症や尿路感染症など、すでに何らかの感染症をお持ちの患者さんが入院されており、感染経路別予防策が実施されているかもしれません。

3年生ぐらいになり実習経験を積んでくると、その感染経路別予防策に対応しながら実習できるかもしれませんが。

1年生の初めての実習で対応するのは、難しいと思います。

そのため、1年生が担当する患者さんは、感染症をお持ちでない方を選定する。集団隔離されている患者さんを担当しないなどの配慮が必要です。

また、感染症をお持ちの患者さんはどこにいらっしゃるのか。

①接触感染、②飛沫感染、③空気感染の3つの経路うち、どの経路からの感染リスクがあるのか。

学生が理解できるように説明したり、明示しておく必要があります。

担当患者さんとのコミュニケーションをする分には問題ないかもしれませんが。

「看護師と共に、看護援助を体験する」時に、実習指導者ではない看護師さんと、集団隔離されている患者さんの援助に入ってしまったり。

援助後のワゴンを片付けようとして、感染症の患者さんをケアしたタオルやリネン類を、不適切な場所に片付けてしまうなど。

意図せず、感染を拡大する行動をとってしまうかもしれないからです。

1年生が、すぐに気付いて予防行動がとれるように、病院施設で申し合わせている目印や決まり事を周知してもらう必要があります。

オリエンテーションで聞くだけでは理解が難しいので、実際に病室の前やナースコール、電子カルテの目印がどのようになっているのか、学生に見て確認してもらうとよいと思います。

手洗いのチェックをお願いしてもいいですか?

これは、私がいつも、意図的に指導者さんにお願いしていることで。

オリエンテーションの一環として、手洗いのチェックをしています。

実習指導者さんの手洗いのチェックを受けるということで。

学生には学内の技術試験とは違った緊張感が漂います。

患者さんを守るためにも、医療従事者の一員であると学生に意識してもらうためにも。

また、「手洗い」で学生に小さなミスをしてもらい、緊張をほぐすためにも実施しています。

学生は、病棟での初めての手洗いに緊張し、必ず洗い残し、拭き残しをします。

それを、指導者さんが、穏やかに

「洗い残しあったよ。」

「あなたは、素手で水道の栓を止めてしまったね、残念。」などと声をかけます。

学生全員をチェックし終わった頃には、

学生全員が、「やっちゃったね。ミスした―。」と苦笑いになり、

「みんなで気をつけよう」、という雰囲気にもなります。

また、指導者さんと学生の距離が縮まります。

危機管理

危機管理は、実習中に自然災害(地震及び台風などの風水害など)が発生した時、学生や教員、指導者さんはどのように行動するのかということです。

日本は、世界有数の災害大国といわれています。

日本の位置や地形、地質、気象条件などにより、地震や津波、火山噴火、台風・大雨が発生しやすく、世界的な異常気象による影響も増えています。

「実習中に、そんな事あるわけない。」と、思うかもしれませんが。

私は、数年前、3年生の夜間実習中に地震が発生してエレベーターが動かなくなり、朝食の配膳が間にあわず、学生と共に階段を使って配膳の手伝いをした経験があります。

ということで、実習中に何が起こるかわからない。

何かが起こった時に、患者さんや実習施設にご迷惑をおかけする存在になるのではなく。

学生として、とるべき行動がとれるようにオリエンテーションをしておく必要があります。

災害時に特別な行動をとるのではなく、日頃からの行動や習慣が適切であれば、災害発生時にも対応できるということです。

常に所在を明確にしておく。

実習開始時の挨拶「〇〇看護学校1年生6名、本日も実習でお世話になります。」

昼休憩に入るときの挨拶「実習生6名中5名、これから休憩に入ります。」

・・・この挨拶が、看護師さん達に聞こえるように言えるだけで、学生の人数と所在の確認になります。

また、患者さんと散歩に病棟外に行くときも、担当の看護師さんに

「学生の〇〇です。担当患者のAさんと、△△まで20分ほど散歩に行ってきたいと思います。」

と、報告できれば、問題ありませんね。

学生が1人遅れて休憩に入るときも、勇気を出して、看護師さん達に聞こえるように挨拶する。

このような事が当たり前にできていれば、災害発生時にも、学生の所在は速やかに確認できます。

安全の確保と避難について

病棟オリエンテーションの一環として、避難経路を確認することも重要です。

初めての実習、慣れない場所で被災した際、容易にパニックに陥るからです。

避難経路とともに、集合場所を確認しておくといいでしょう。

また、様々なシチュエーションを想定し、学生に考えさせることも重要です。

例えば・・

  • 患者さんの清拭中に地震が起こった。
  • 患者さんと病棟外に散歩に出かけていて、地震が起こった。
  • 1人でお昼の休憩中に地震が起こった。  など。

「寝たきりの患者さんだったら、清拭を中断して、病衣を着てもらう。ベッド柵をあげて揺れがおさまるのを待つ。」

「看護師さんと援助をしていたら、看護師さんの指示に従う。」

「患者さんと歩いていたら、窓ガラスから離れる。揺れが落ち着くまで、その場で待機する。近くの病棟に駆け込み、看護師さんの指示を仰ぐ。電話を借りて、状況を病棟に報告する。」

「揺れがおさまったら、ナースステーションにいく。教員や看護師さん、病棟責任者の指示に従う。」など。

教員や学生は、自分の身の安全を確保した上で、実習施設の看護師の指示のもとに患者さんの安全を確保し、避難・報告ができればよいと思います。

 

自分の身を自分で守り、患者さんの安全安楽を第一優先とする。

また、日頃からの報告・連絡・相談ができていれば、災害発生時にもあわてる事無く指示に従い行動できます。

言うまでもなく、メンバーシップ・リーダーシップを発揮できれば、パニックになることなく協力し合うことができるでしょう。

まとめ

今回は、病棟オリエンテーションを受けるの、

7.感染対策
8.危機管理

について、解説しました。

初めての実習だからこそ、医療従事者になるものとしての自覚や責任を意識してもらう必要があると考えます。

どの実習でも、どんな場面においても必要となる基本のオリエンテーション内容です。

学生を受け入れる実習施設側にとっては、毎回のことと思うかもしれませんが、学生の耳が痛くなるほどすりこませたい内容でもあります。

患者さんの安全・安楽を守るためにも、学校側としても気を抜かずに指導していきたいと思います。

次回で、基礎看護実習 初日の指導案シリーズ最終回です。

最後まで、頑張ります。

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