看護実習。個性豊かな学生達だから、指導が面白い。
前回のブログでは、実習記録を書くのが苦手な学生に対し、
看護教員にこが、実習指導中、必ず行っていたことの1つをお伝えしました。
それは、学生を実習に送り出す前日に全員分を。
実習中の朝、できる限り毎日、
実習指導担当グループ全員の「今日の実習目標の確認」と、「今日の行動計画の確認」をすることでした。
この2点を確認すると、心配な学生か、大丈夫な学生か、だいたい判断することができます。
「心配な学生」は、
実習の目的目標が十分に理解できていないため、今日、実習で何をしたらよいかわからない学生です。
「なんとなく、実習グループのメンバーと同じように、行動計画を書いてみました」っていう感じで書いてあります。
「大丈夫な学生」は、
実習の目的や目標が理解できていて、今日、実習でやるべきことがわかっている。
そして、行動が計画できている学生です。
「今日から担当患者さんのリハビリが始まるので、安全に環境を整えながら、日常生活動作の状況を確認する。」
「13時からリハビリ。配膳後すぐ休憩。12時45分に訪室、食事量と体調を確認。」などと書いてあったら、合格です。安心して実習に送り出せます。
「とってもいいね。それでやってごらん。大丈夫だよ。いってらっしゃい。」と笑顔で送り出し、
少しの自信と、勇気を持たせてあげればOKです。
「大丈夫な学生」は、見守っているだけで、自分の力でどんどん実習を進めていくことができます。
「心配な学生」は、支援や助言が必要です。
心配な学生には、4つの傾向がありました。
(あくまでも、看護教員にこの感覚です。)
- 看護師になりたい。真面目で課題もこなすが、成績が伸びない。深く考えることが苦手。
- 看護師になりたい。学力は平均程度以上あるが、勉強は好きではない。課題の取りかかりが遅い。
- もともと看護師にはさほどなりたくない。資格は取りたい。(親に勧められたから、など)
- 看護師になる自信がない。実習に行きたくない。課題に取り組めない。
前回は、1つ目の学生について、お伝えしたので、
今回は、2つ目の学生の指導について。
私が工夫していたこと等、お伝えしたいと思います。
心配な学生の傾向⓶:看護師になりたい。学力は平均程度以上あるが、勉強は好きではない。課題の取りかかりが遅い。
実習指導をしていると、毎日書くべき実習記録に、何も書かれていないまま、提出してくる学生がいます。
②番の学生は、患者さんに対して、一生懸命関わることができる学生が多いです。
もともと、看護師になりたくて入学してきた学生です。
人の役に立ちたい。私にできることがあれば、したい。
困っている人や苦しんでいる人を助けたいという、優しい気持ちがあります。
この学生は、病院施設のスタッフや、看護師さんに対しても、積極的にアプローチし、頑張っているように思います。
実習の場では頑張れるのですが。
家に帰り、食事をとり、お風呂に入るとリラックスモードになってしまうのでしょうか。
課題に取り組む気になれず、眠ってしまい、気がついたら朝になっていた。
実習記録や課題を何もやっていなかった。
ということが多いように思います。
また、日頃からの学習習慣がなく、テスト前に集中して暗記や勉強をするけど、テスト後は全部忘れてしまう・・・。
という傾向も多々あるように感じます。
実習が始まった頃は、積極性や行動力があるため、実習施設のスタッフや看護師さん達から、
「元気でいいね。」とか、
「報告や相談ができるね。」とか、
「患者さんとしっかりコミュニケーションが取れているね。」など、
好印象を抱かれることが多いのですが。
実習が進むにつれて、看護師さんから
「患者さんが使用している薬剤について、調べてきてって学生さんに言ったんですけど、報告がないんです。忘れちゃったんですかね。」とか、
「3年生だから、病態については学習していますよね?」
などと、質問や確認をされることがあります。
病院施設のスタッフや看護師さん達は、3年生に対して、1・2年生とは違い、根拠をもって行動しているだろうと期待しています。
でも、看護師さんが学生から報告や相談を受けたり、学生の行動や援助の様子を見たり、患者さんとのコミュニケーションの様子を見たときに、
看護師さんは、学生の行動に根拠がないと感じているということなのです。
根拠というのは、解剖生理や病態生理学の知識はもちろん、患者さんへの看護の根拠ということです。
患者さんを理解して、根拠ある安全安楽な看護を実践するための勉強をしているのかな、ということ。
厳しい言い方をすると、看護師さんからは、看護学生が病院施設で実習をしているのではなく、ただの優しいお姉さんが、実習に来ているように見えるということです。
(高校生の一日看護体験をイメージしてもらえるといいかもしれません。看護師さんに言われたことを一生懸命やってみたり、患者さんと一生懸命お話していますよね。高校生は、看護を学んでいませんが、看護師らしい行動はできますよね。)
・・・。
実習で頑張り過ぎて、家では力が尽きてしまう。
課題に取り組むことができない。
このような状態が続くとどうなるか。
大きく、3つの問題がでてきます。
- 実習記録や課題に真面目に取り組んでいる学生との学びの差が、だんだん大きくなる。
- 実習環境に慣れて動けるようになるが、根拠がないため、事故を起こしやすい。
- 看護師さんへの連絡・報告・相談、カンファレンスでの発言、患者さんとの関わりに自信が持てず、実習態度が消極的になる。
です。
1.実習記録や課題に真面目に取り組んでいる学生との学びの差が、だんだん大きくなる。
実習記録や課題に取り組んでいる学生は、担当している患者さんの看護問題が明確になり、看護計画にも個別性がどんどん出てきます。
記録を書きながら、考え抜いたことを患者さんに実践することで、成功しても失敗しても、大きな学びを得ることができるのです。
考え抜き、実践したことを記録を書きながら丁寧に振り返ることができれば、より患者さんにあった看護の提供に結びつき、実習がどんどん楽しくなってきます。
「足浴を椅座位で行ったら、足が温まって嬉しそうだった。でも、最後の方は、足をあげるのが大変そうだった。今度足浴をする時は、車椅子で実施し、上半身を安定させてみよう。下肢の筋力がついてくるまでは、ボディメカニクスをうまく活用していきたい。そのために、学習しよう。」
「患者さんの全身を観察するために、病態の学習をしよう。計測方法を確認しよう。」
「浮腫がある患者さんの清拭方法について調べて、明日の援助で活用しよう。」
などと思考を深めることができれば、看護の実践も、より根拠が増して楽しくなってきます。
しかし、実習記録や課題に取り組まないと、日々の実習内容(患者さんとのコミュニケーション、清拭などの援助、看護師さんにアドバイスしてもらったこと)を丁寧に振り返ることがありません。
「明日は清拭の日だから、午前中はバイタルサインを測定して、清拭をして終わりかな。」➡計画通り、バイタルサイン測定と清拭ができた。良かった。
「空いた時間は、患者さんとお話しよう。」➡患者さんと楽しくお話しできた。
これでは、同じ清拭を実施したとしても、学びに差が出てきてしまうのは仕方のないことです。
2.実習環境に慣れて動けるようになるが、根拠がないため、事故を起こしやすい。
この学生は、基本的に積極性があり、優しいため、実習場では自分に何かできることがないか考え行動しています。
実習環境に慣れてくると、看護師さんが簡単に実施しているように見えることを、見よう見まねで実施しようとしたり。
知識がない中、自己判断で相談なく援助を実施しようとする傾向がでてきます。
慢性期で、病状が安定している患者さんを担当していば大丈夫、というわけでもありません。
学生が、いつものように担当患者さんをベッドから車椅子へ移乗介助をした。学生は、昨夜から眠剤を内服していることを理解していなかった。(内服が追加になることは知っていたが、どのような作用の薬剤か調べていなかった。)そのため、ふらつきの出現を予測できず、転倒させてしまった。
などです。
学生は、知識や根拠がないままに、
「自分にもできるだろう」
「いつも通りで大丈夫だろう」
という思い込みで、短絡的に行動に移してしまうのです。
3.看護師さんへの連絡・報告・相談、カンファレンスでの発言、患者さんとの関わりに自信が持てず、実習態度が消極的になる。
実習当初は積極的に行動し、援助を行ったり、看護師さんや患者さんと関わる中で、
「実習をしている感覚」があるのですが。
実習が進むにつれて。
看護師さんとのやり取りやカンファレンス等のグループメンバーとのやり取りの中で、
- 自分の行動に根拠がないこと
- 知識が不足していること
- 学習が不十分で、根拠なく患者さんと関わることへの申しわけなさ
- グループメンバーと同じように課題に取り組めない自分がなさけない
- 自分の発言や行動に自信が持てない
などなど。
次第に自覚し始めます。
そうすると、看護師さんやグループメンバーの、発言や顔色をうかがうようになってしまうこともあります。
「自分は実習ができている」という自己肯定感が、急降下してしまうのです。
やらなければならないこと(実習記録や課題に取り組む)を、やらないからいけないのですが。
そこを何とかできるように支援していかないといけません。
支援しないと、この学生は、実習が嫌いになり、看護師になりたくなくなるかもしれません。
看護記録や課題に取り組むのが遅い・苦手な学生に対して、教員はどのように関わっていけばよいのでしょうか。
看護記録や課題に取り組むのが遅い学生への対応、どうする?
この学生に対して、
「この実習記録とこの課題を、明日の朝までに必ずやってきてください。確認します。」と、
指導するのは、あまりよくありません。
そもそも、日頃の生活態度や学習習慣に根本的な問題があるため、「1日、2日頑張れば良い」という、その場しのぎの学習になってはいけません。
なにしろ、3年生は、11月まで半年も実習が続くのです。
2日だけ睡眠時間を削って頑張ったけど、もう体力が続かない。
毎回、どの領域の実習も、実習4日目頃になると、体調が悪くなって休んでしまう。
・・これではだめなのです。
これなら実習、頑張れる。自分にもできそう。
と、学生が思えること。
そして、実行に移せるよう支援することが大切です。
どのようにアプローチすればよいでしょうか。
実習、積極的に頑張っているね。
担当の患者さんともしっかりとコミュニケーションをとって、関係性を築こうとしているね。
はい。実習、楽しいです。
今日は、看護師さんと一緒に、担当患者さんの全身清拭と寝衣交換をしました。
少し時間がかかってしまったのですが、患者さんにありがとうって言われました。
学生は笑顔で、満足している様子です。
このままだと、「良かったです。」「嬉しかったです。」で終わってしまい、せっかくの学びのチャンスが失われてしまいます。
行った援助をしっかりと振り返ってもらい、学びの機会としたい。
そして、学ぶことが楽しいと感じられるようにしていきたいな。
時間がかかってしまったのは、なぜなのか知りたいな。
そこをきちんと振り返ることができると、学びが深まりますね。その点について、今日はしっかりと振り返ってみましょう。
あなたは、実習中はいきいきとしているけど、実習記録は元気がないのよね。
実習で頑張り過ぎちゃって、家に帰ると、疲れて何もできなくなっちゃうのかな?実習以外に、頑張らなくちゃいけないことがあるの?
この学生は、気が利くし、清拭を何回も経験していたので、看護師さんと一緒に援助をすれば、そんなに時間がかからないはずだと思いました。
ここは、きちんと振り返りをしてほしいことを伝えます。
実習記録に取り組めていないことについては、気がかりに思っていることを伝え、何か理由があって記録に取り組めていないのか、確認します。
家に帰って、ご飯を食べるとどうしても眠くなってしまって。
少し眠った方がすっきりするかな、と思って寝ると、いつの間にか朝なんです。
それではいけないと思っているのですが。
自分に甘えてしまうタイプなのかな。
そうね。実習は疲れるし、体調を整えることは基本ですね。
でも、やるべき記録や課題はやらないと。学びが深まっていかないよね。
みんなの様子を見て、少し、焦ってきたんじゃないの?
はい。みんなに記録をどうしているか聞くんですが、みんなのようにはできないんです。
何から書き始めればいいのか。ペンを持ったまま、30分ぐらい何も書けないことがあります。
気持ちは焦っているんですけど、どうしたらいいか・・・。
頑張りたい気持ちがあるようで良かった。
でも、日頃からの学習習慣がないことが、実習にも大きく影響しているように思います。
振り返り方については支援と工夫が必要そうです。
今までは、暗記の学習で何とか対応できていたかもしれませんが、
実習記録は自分が観察したことや体験したことから、自分の考えを整理し、文章化していくものです。
この作業には訓練が必要です。
その場しのぎの学習をしてきた学生にとって、実習記録をまとめるのは難しい学習内容です。
この学生は、看護体験をしていても、体験したことから自分が何を考えてそうしたのを深く考えることをあまりしてこなかったのだと思いました。
私は、実習記録や課題に取り組めない学生を指導する時、必ず普段の生活背景や生活リズムについても確認するようにしています。
学生の中には、
- 通学に2時間近くかかってしまう学生
- アルバイトで生活費を稼いでいる学生
- 家庭で家事を担っている学生
- 育児や介護をしている学生 など
学業以外のところでも頑張らなければいけない学生がいるからです。
(中には、炊事・洗濯・掃除などすべて、時にはユニフォームの準備まで親がやってくれるという、早く大人になってほしい学生もいますが。)
個々の学生の生活背景や生活リズムを確認したうえで。
また、学生の学力や実習状況、身体的・精神的疲労状況を確認しながら、どんな風に実習を行っていけばいいのか。
どんなふうに実習記録や課題に取り組んでいけばいいか、助言していきます。
一方的に助言するのではなく、学生に実行できそうかどうか確認しながら。
他のやり方はないか、相談しながら、学生と二人で計画していきます。
この学生は、家の事はすべて親がやってくれるので、自分の事だけに専念できるとのことでした。
私は、実習日の生活リズムを確認しました。すると、
17:00 実習終了
18:45 帰宅
19:00 夕食
20:00 入浴
21:00 実習記録に取り組む
22:00 就寝
6:00 起床
7:00 登校
8:30 実習開始 です。
1時間ぐらい記録を頑張ってみるのですが、はかどりません。眠くなってしまいます。
通学には20分~30分程度かかります。
と言います。
生活リズムを確認したところ、予想通り、活用できる時間がたくさんあることに気づきました。
また、実習中のお昼休みも1時間確保されているため、うまく活用すると実習記録を進められると考えます。
そして、患者さんに行った援助を振り返りやすくするために、振り返る視点を確認したほうがよさそうだと考えました。
先生からの提案です。
絶対にやらなければいけない実習記録については、学校ですべて済ませてしまいましょう。
実習終了から、18:15までは、何をして過ごしているのかな。
1時間以上時間があり、もったいないです。
帰宅して、自分の事だけすればいいのであれば、すぐに帰らなくても大丈夫だと思います。
特に用事がなくだらだらと過ごしているのであれば、学校で集中して実習記録に取り組みましょう。
午前中に患者さんへの援助をしたのであれば、お昼休みに、箇条書きでもよいので、援助を通して気づいたこと、考えた事、看護師さんに助言頂いたことを整理しておきましょう。
また、実習中にも考えたことや学んだこと、調べたいと思ったことをすぐにメモする癖をつけましょう。
実習が終了したら、そのメモを確認しながら実習記録に取り組んでみてください。
記録がはかどると思います。
今日、やらなければいけない実習記録や課題が学校で終了していると、スッキリした気持ちで帰宅できると思います。
家では、調べものや病態の理解、技術の確認などに時間があてられるといいですね。
今日、特に用事がないのであれば、援助の振り返りをして帰りましょう。
「看護基本技術を支える態度や行為の構成要素」について、覚えていますか?
今日は、この構成要素の視点で振り返ってみましょう。
実習終了後、3つまでかけたところで、私のところまで持ってきてください。
最後まで書いて、全部ダメだしされると辛いでしょ?
今日は少し大変かもしれませんが、慣れるとこの方が早く書けると思いますよ。
がんばって。
と、助言と指導をしました。
この学生は、実習終了後、援助の振り返りをし、実習記録を提出しに来てくれました。
やはり振り返りが浅かったのですが、「この時、どうしてそのように体を支えたの?」とか、
「なんで、そのような声かけをしたの?」などとやり取りをするうちに、
「肩関節を動かしたときに、辛そうな顔をされていたので・・・。」など、
少しずつ自分が観察したこと、実施したことを客観的に振り返り、分析できるようになってきました。
とてもいいですね。
その調子で、他の項目についても振り返りができるといいですね。
大丈夫かな。できそうかな。
実習記録全部でなく、記録の書き始めの部分だけでも、考え方を指導すると、書けるようになる学生もいます。
学生が何につまづいているのかを確認し、乗り越えられそうな課題を設定し、まずは一緒にやってみる。
この姿勢が重要なのではないかと思います。
教員として、学生に寄り添う。学生と一緒に看護する。
看護実習では、教員は、学生が実習で看護を学べるようにサポートします。
学生が家に帰ってから、実習記録を目の前にして、
途方に暮れてしまうことがないように。
「2時間しか眠れませんでした。」
ということがないように、指導・助言していきたいものです。
時には、
「今日は何もしなくていいよ。美味しいものをたくさん食べて、ゆっくりお風呂に入って、8時間以上眠ってくること。」
という指導をしたことも、何回もあります。
看護師さんや指導者さんに何か言われたら、
「先生に何もするなって言われました。」
と言いなさい。学生に言っていました。
(もちろん、看護師さんや指導者さんには、このような指導をしましたと、根回ししておきますが。)
看護を学ぶために、学生は実習に行っているのです。
記録をこなすために、心身を疲弊し、つらくなるために実習に行っているわけではありません。
看護が楽しいと思えるように。
看護ってやりがいがある、素敵な仕事だと思ってもらえるように、サポートしていきたいと思っています。
文章量がだいぶ多くなってしまったので。
次回、心配な学生の傾向③についてお伝えしたいと思います。
コメント