その31:基礎看護実習 患者さんとのコミュニケーション指導④

看護教員にこの実習指導の実際

基礎看護実習、初日の指導案を解説します。

基本設定は、

基礎看護実習1(7日間)

実習目標:看護の対象を理解し、看護の実際を知る

実習内容:担当する患者さんとのコミュニケーション

     看護師と共に、看護援助を体験する

実習時間:8時30分~16時30分(昼休憩1時間)

です。

それぞれの看護学校や大学によって、先生方の考え方によって、実習での指導方法は様々だと思います。

これは、教員にこが、10年間実習指導を続けてきた中での、私なりの工夫が盛り込まれた指導方法です。

私自身の失敗や体験に基づいたものなので、参考までに、ということで、お願いいたします。

私が大事だと考えている以外にも、大切なことがあるかもしれませんが。

私の学びを看護教員や看護師さん、実習指導者の皆さんと共有でき、お役に立てたら嬉しいです。

学生が担当患者さんと会話している場面を観察する。

前回は、

  • 学生が実習で患者さんと関係性を築いていくうえでの「患者さんとの距離感」
  • 患者さんだけでなく、学生にも「パーソナルスペース」があり、それをふまえたコミュニケーションの支援が必要

ということについて、解説しました。

今回は、学生が患者さんと会話をしているときの位置・場所について、解説したいと思います。

学生がナースステーションにいないときは、自分の担当患者さんのところにいることが多いので、私も学生が担当する患者さんのところに向かいます。

学生が患者さんとどのように関わっているか、確認するためです。

また、患者さんのところに学生がいなかったとしても、学生が受け持たせていることへの感謝の気持ちを伝え、学生との関わりで感じていらっしゃることなどをうかがいます。

また、それとなく、症状や治療の状況をうかがい、観察させていただきます。

学生は、患者さんと関わり始めたばかりなので、患者さんからのクレームなどはまだありません。

患者さんからは、

「緊張していたけど、きちんと挨拶していったよ。」

「素直な、いい子だね。」

などと、好意的に学生を受け入れてくださっています。良かったと、ほっとします。

ただ、学生が患者さんとお話している姿を見て、

「おやおや、これは・・・(助言が必要だな)。」

という場面が、結構あります。

学生は、丁寧に挨拶をし、患者さんを尊重した態度で言葉遣いにも気をつけながら会話をしているのですが。

学生の立っている位置が、とても残念なことが多々あるのです。

患者さんが気持ちを話しやすい位置・場所で会話しているかな?

患者さんと会話をする上では、患者さんが話しやすいように配慮することが大切です。

看護師さんであれば、患者さんの症状や治療の状況、ベッド周囲の環境や会話の内容に合わせて、自分が立つ位置を考えながら会話をしていると思います。

ですが、学生は担当して間もない患者さんと関係性も十分に築けていない状況において、効果的な立ち位置を考えて会話をするのが難しいです。

学生は、「とにかく、患者さんとお話をして、仲良くなろう。」という気持ちで、

勇気をだして患者さんのところに行き、失礼がないように、言葉遣いに気をつけて話すのが精一杯です。

そんな学生の患者さんとの会話の様子を見てみると、患者さんと学生の位置関係が、とっても残念なんです。

私が観察した学生と患者さんの残念な位置関係①

  • 患者さんがベッドで臥床している。学生はベッドの足もとから立位で声をかけている。
  • 患者さんがベッドで臥床している。オーバーテーブルがあるため、学生はベッドの足元にある椅子に座り、患者さんに声をかけている。
  • 患者さんがベッドで臥床している。患者さんは右手に点滴をしているため、学生はベッドの足元にある椅子に座り、点滴スタンドをはさんで患者さんに声をかけている。
  • 患者さんがベッドで臥床している。学生は患者さんの枕元で床に立膝になり、ベッド柵をはさんで声をかけている。

「学生が、臥床している患者さんを見下ろしているよー。」

「臥床している患者さんが、一生懸命学生の顔を見ようと、頭部を持ち上げているよー。」

「臥床している患者さんが、ベッド柵の隙間から学生と目線を合わせようと頑張っているよー。」

・・・。

学生の一生懸命な様子に、患者さんが応えようとしてくださっているのですが。

私は、なんだか申しわけない気持ちになります。

私が観察した学生と患者さんの残念な位置関係②

  • 患者さんがベッド上で座位になっている。その真正面で学生が患者さんと向き合い、椅子に座って会話している。

学生は、患者さんと目を合わせて会話をしています。

一見、良いような気がしますが、患者さん・学生共に緊張感がなんとなく漂っています。

もっと、やわらかい雰囲気で会話ができるといいのだけど・・・。

私が観察した学生と患者さんの残念な位置関係③
  • 右耳がよく聞こえない臥床している患者さんに対して、学生は右側から話しかけている。左側のベッドには違う患者さんがいらっしゃった。

隣のベッドに患者さんがいらっしゃったので、遠慮したのかもしれませんが、学生は、一回一回左耳に顔を近づけて話しかけていました。

学生も、患者さんも会話に集中することができたでしょうか・・・。

また、患者さんの表情や反応をしっかりと確認しながら会話ができたでしょうか。

患者さんと会話をする時の最適の位置:斜め45度の位置

患者さんと関係性を築くため、コミュニケーションをはかろうとするときには、「斜め45度」の位置がとても有効です。

学生と患者さんの目線がずっと合うことはなく、自然な会話を生みやすいのです。

また、会話のなかで表情を見たいときには表情を見ることができます。

実は、私自身もこの位置関係を有効活用しています。

例えば、学校で学生が「ちょっと相談したい事があるんですけど・・・。」

と、私の顔色を伺いながら申しでたときは、何気なく学生のプライバシーが確保できる場所に学生を誘導し、学生から斜め方向の角度になる位置に座ります。

四角いテーブルの角が直角になる1辺ともう1辺に、学生と私で座るのがベストです。

そうすることで、もし相談事が打ち明けにくい内容だった場合も、学生は自分のペースで、落ち着いて話せるようになります。

学生の真正面に誰もいないので、学生の目線は自分の好きな方向に飛ばしておいて大丈夫ですし。

学生の正面に誰もいないことで、自分だけのプライベートな空間が確保されているという安心感が得られます。

どうしても、学生より教員の方が立場が強くなりがちなので、学生と教員の間にテーブルなどがあった方が、学生にとって、安心感が得られるとも感じます。

この、斜め45度、四角いテーブルの角が直角になる1辺ともう1辺に、学生と患者さんが座るのがベストだと考えます。

実習での「学生と患者さんの残念な位置関係の場合、

① 患者さんが自分で起き上がることができない場合

➡ベッドアップが可能であれば、ベッドアップして45度の位置関係で患者さんと目線を合わせて会話をする。

➡患者さんにオーバーテーブルを動かしてよいか確認し、学生が座れる場所・位置を確保して会話する。

➡看護師に相談し、患者さんの点滴ラインやスタンドを動かして、場所・位置を確保して会話する。

➡看護師に相談し、学生が患者さんの側にいる時はベッド柵を降ろし、場所・位置を確保して会話する。

② 学生が患者さんと正面で向き合って会話している。

➡斜め45度の位置関係で、患者さんと会話する。

③ 右耳がよく聞こえない臥床している患者さんに対し、学生は右側から話しかけている。

➡患者さんや看護師さん、隣の患者さんに確認し、患者さんの左側に座る場所・位置を確保して会話する。

例えば、上記のように患者さんの体位を整えたり、場所を確保したり、学生の座る位置を配慮したら。

患者さんにとっても、学生にとっても、会話のしやすい環境になるのではないでしょうか。

初めての実習なので、学生は、

「患者さんのプライベートな空間にあるものを、出来るだけ触ったり動かしてはいけない。」

「患者さんの体位を整えるなんて、絶対無理。できるか不安。怖い。」

「点滴なんて、まだ習っていない。何をどう注意したらいいかわからないし、触らない方が無難。」

などと考え、出来るだけ当たり障りなくやり過ごそうとします。

当然といえば当然の反応です。

患者さんと会話する時に、看護師さんの何気なく行っていることが、学生にとって、とてもハードルが高い行動の場合があります。

看護師さん達は、担当されている患者さんのケアで忙しいので、学生のこのような状況があれば、出来る限り私が助言するようにしています。

出来れば避けてほしい患者さんと会話をする時の位置

学生が患者さんの真正面に座る

学生は、しっかりと患者さんのお話を聴こうとして、患者さんの真正面に座ることがあります。

一般的に、説明をする時や真剣な話をする時に、相手の目の前に座ることが多いと思います。

正面に座ると、相手の目を見ながら話ができ、うなずきなどの相手の反応がしっかり確認できます。

また、自分の表情を相手に見てもらうことで、真剣な気持ちや嬉しい気持ちなど、感情を伝えやすくなります。

でも、正面に座って会話をすることで、相手に威圧感や緊張感を与えてしまう場合もあります。

例えば、面接試験では、試験官が正面にいて、とても緊張したり圧迫感を感じますよね。

学生が担当する患者さんは、年配の方が多いので、緊張したり圧迫感を感じることは少ないかもしれませんが。

患者さんと関係性ができていない状況では、学生は、緊張が強くなってしまい言葉がでてこなくなってしまうこともあります。

患者さんとの関係性ができてきたら、真正面に座るのも良いかもしれませんが。

最初のうちは、避けた方が良いかもしれませんね。

学生が患者さんの真横に座る

学生が、自分からいきなり患者さんの真横に座ることはないと思いますが。

患者さんと一緒に散歩に行った時や、患者さんのリハビリを見学をしている時などに、患者さんに「座りましょう。」と、促されるかもしれません。

皆さんに、考えてもらいたいのですが、自分の真横に座ってもゆるされる人というのは、家族や友人、パートナーなど、気心が知れている人ですよね。

つまり、真横に座れるということは、お互いの親密度が高いといえますし、親密度を増すための位置関係であるともいえます。

しかし、相手が真横にいると、表情がわかりづらく、距離も近いために相手のパーソナルスペースに侵入している可能性も高くなります。

また、学生は健康な方と接しているのではなく、療養中の患者さんと接しています。

会話の最中に、患者さんの体調が変化することもあるかもしれません。疲れが出てしまうかもしれません。

学生が患者さんの真横にいたのでは、そのような変化に気づくことはできないかもしれませんね。

まとめ

学生は初めて療養中の患者さんとお話します。

患者さんと話す時の座る位置も、手探りの状態です。

看護師さんは、患者さんとのコミュニケーションを日常的にとっています。

看護師さんは、コミュニケーションスキルを学んだことがなかったとしても。トレーニングをしたことがなかったとしても。

日々患者さんと向き合い、誠実に看護実践を積み重ねていく中で。

トライ&エラーを数えきれないほど繰り返しながら、患者さん一人ひとりにあったコミュニケーション方法を選択し、実践しています。

そんな看護師さんのコミュニケーションスキルは、ものすごく高いです。

学生のコミュニケーションの様子を見ると、もどかしく感じるかもしれませんが。

暖かい目で見守りながら、小さな階段を一歩一歩登る学生を支援していただきたいと思います。

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