看護実習。個性豊かな学生達だから、指導に工夫が必要。
看護教員にこが、実習指導中、必ず行っていたことの1つは、
朝のうちに、実習指導担当グループ全員の「今日の実習目標の確認」と、「今日の行動計画の確認」をすることです。
この2点を確認すると、心配な学生か、大丈夫な学生か、だいたい判断することができます。
「心配な学生」は、実習の目的目標が十分に理解できていないため、今日、実習で何をしたらよいかわからない学生です。
「大丈夫な学生」は、実習の目的や目標が理解できていて、今日の行動計画が具体的な学生です。
心配な学生には、4つの傾向がありました。
(あくまでも、看護教員にこの感覚です。)
- 看護師になりたい。真面目で課題もこなすが、成績が伸びない。深く考えることが苦手。
- 看護師になりたい。学力は平均程度以上あるが、勉強は好きではない。課題の取りかかりが遅い。
- 看護師にあまりなりたくないが、資格は取りたい。(親に勧められたから、など)
- 看護師になる自信がない。実習に行きたくない。課題に取り組めない。
今回は、3番目の学生の指導について、私が工夫していたこと等、お伝えしたいと思います。
(1・2番目については、前々回、前回のブログをご覧ください。)
心配な学生の傾向③:看護師にあまりなりたくないが、資格は取りたい。
学生一人ひとりの実習記録を確認していくと、その学生の患者さんへの思いとか熱意、実習で何をしたいのかが伝わってきます。
- 患者さんへの関心はどのくらいあるのか。
- 患者さんとどのくらいコミュニケーションが図れているのか。
- 患者さんにどのようになって欲しいのか。
- 患者さんに何をしたいのか。
- 学生自身はどんな自分になりたいのか。そのために、何をしたいのか。
- 学生自身の強みは何で、弱みは何か。何を頑張りたいと思っているのか。
などなど。
記録をたくさん書ける学生もいれば、頑張っても少ししか書けない学生もいますが、
記録を見ていると、その学生の患者さんへの思いや、どんな自分になりたいと思っているのか、
思いが強く伝わってきます。
でも、中には、当たり障りなく記録を書いている学生がいます。
当たり障りなく記録を書いているから、悪い、というわけではないですし、
看護学生全員が、情熱をもって看護師になってほしいというわけでもありません。
私自身も、看護学校に入学したきっかけは、
友達が看護師になりたいと言っていたことと、
その友達に、
- 国家資格がもらえる。
- 選ばなければ、日本全国どこでも、何歳からでも働ける。
- 一生稼ぐことができ、生きていくことができる。
と言われたからです。
高校生の私は、看護師しかないと思いました。
(看護学生になってから、大変さに気づきました・・・。)
なので、入学の動機はなんでもいいのです。
看護師としてのやりがいや情熱、患者さんへの思いは、働きながらでも培うことができます。
職業に対する考え方は、人それぞれです。
3年生になると、すでに実習を通して、看護師という職業の責任の重さや大変さを実感しているものです。
看護師になりたいと思って入学してきた学生達も、ほぼ全員が、
一度は、(何回も、)
- 実習に行きたくない、
- 学校を辞めたい
- 看護師になりたくない
と思った経験があるはずです。
学生は様々な状況に遭遇し、様々な患者さんや医療スタッフとの出会いの中で、
良い事ばかりではなく、
理不尽な思いやつらい思い、
悔しい思いや情けない思いを経験します。
その時に、
「看護師にあまりなりたくないけど、せっかく入学してここまで勉強してきたのだから、国家資格は欲しい」
と思って実習をしている学生に陥りがちなのが、
「もともと、看護師になりたいわけではないし。国家資格があったら、有利かな、と思っていただけだし。看護学校も本気で入りたくて入ったわけではないし。学校、辞めようかな。」
という考え方です。
目の前のつらい状況から逃げるための言い訳として、
看護学校に入学するという道をえらんだことを。
看護師という国家資格を取得する選択をしたことを。
「人(親や高校の先生など)のせい」にして逃げてしまうということです。
時には逃げることも大切です。
実習に行ってみて。
患者さんと関わり、看護を体験しみて。
「私には、看護師は向いていないことが良く分かった。」
というのならいいのです。
実際に体験してみないとわからないことは、沢山あります。
看護学校で学んでみて。
実習に行ってみて。
「看護師ではなかった。」「本当に自分のやりたいことがわかった。」でもいいと思うのです。
多少、回り道をしたとしても、学生自身の人生です。
学生が自分で納得し、決意した上での看護師以外への進路変更であれば、
私は、清々しい気持ちで応援し、送り出すことができます。
(残念ですが・・・。)
でも、実習に関連した高いハードルが、学生の目の前にきたときに、
「親が看護師になりなさいと言ったから。(自分の意志ではないから)」
「高校の先生が、奨学金がもらえると言ったから(自分の意志ではないから)」
と、誰かのせいにしてハードルを越える努力をしない。
誰かのせいにして、コースアウトしていくのは、違うと思うのです。
親や高校の先生は、
「看護師というコースもあるよ」、「奨学金がもらえるコースもあるよ」と、示してくれただけです。
そのコースを走ろうと決め、走り出したのは、学生自身です。
そのコースを走り切ることができるように見守り、支えるのが教員の役割だと思います。
本来は、入学直後から、看護師になるというコースを選択した自分と向き合うことができるように。
1人の人として成長できるように、学級活動や面接などを通して、支援していくものだと思いますが。
中には、実習という高いハードルが来るまで、つまづくことがなく、進んでしまう学生もいます。
そのような学生に対しては、学生が自分を見つめなおす機会であると捉え、丁寧に支援する必要があると思います。
学生が、実習に行きたくない。学校を辞めたいと言ったら。
まず、話を聴く機会をすぐに作ります。
ゆっくりとくつろげる環境で、誰にも邪魔されず、誰にも聞かれない場所で、十分な時間をとります。
(私は、30分以上、1時間以内を基本としています。)
時間を決め、学生にも「あなたの時間を私に30分ほどください。」と許可を得ることが、学生の負担にもならず、対等な話し合いにつながると思います。
学生の本当の気持ちを汲みとる
まずはその学生の話をじっくりと聴きます。
なぜ実習が辛くなったのか、退学したくなったのか、本当の理由が言えない学生も多いです。
例えば「看護師に向いていない」や、「実習記録が書けず、みんなについていけない」といった理由を言ったとしても、
実際は、「グループメンバー内の人間関係の悪さ」や、「病院施設や看護師への不満」、「教員や実習指導に対する不満」などを抱えているかもしれません。
また、金銭的な問題や、家庭環境の変化、私生活上(結婚や妊娠、パートナーとうまくいっていないなど)の問題を抱えているかもしれません。
教員は、指導する側なので、立場が強くなりがちです。
さらに、実習では学生を評価しなければなりません。
そのため、学生は弱みや本音をなかなか言い出すことができません。
学生が本音を言いやすく、相談しやすいよう、学生の話に耳を傾ける必要があります。
指導はせず、学生自身で答えが出せるように導く
「指導しないこと」を心がけましょう。
実習が辛くなり、退学したくなった理由が、どんなに自己中心的なものだったとしても、すぐに指導せず、耳を傾けるようにします。
学生の話に答える際にも、否定するような表現や「こうすべきですよ。」などの指導はしないように気をつけます。
教員が答えを示すのではなく、学生が、思いや考えを整理できるように、話を聴き、導いていきます。
学生は、辛くなっているときは、感情的になり、客観的に自分を見ることができなくなっています。
冷静に判断し、建設的に物事を考えることができません。
教員が落ち着いた態度で話を聴くことで、学生の心がクールダウンし、客観的に自分の状況や感情を理解することにつながります。
その上で、本当の問題は何だったのか。何を解決していかなければならないのか、学生が判断できるとよいと思います。
学生が自分の思いや考えを整理できないまま、教員が答えを示してしまうと、
また違うハードルがきたときに、
「あの時に先生がこう言ったから。」と、自分と向き合うことができない人になってしまいます。
その場しのぎの解決や対応にしない。
看護師として、一人の人間としてどうあるべきか、
考える機会を学生に与えることが、重要だと思います。
看護を必要とする方々の力になるために、看護師は、常に人間性を磨いていくことが求められます。
勇気がいることかもしれませんが、学生の力を信じて、
学生が自分自身と向き合うことができるよう、支援していきたいと思っています。
(でも、実際は、我慢できずに色々と言いたくなってしまうのですが。苦しいところです。)
私自身の人生や、何を考えて教員を(看護師を)しているのかを語る
私は、話好きということもありますが、
学生が、実習に行きたくない、学校を辞めたいといった時以外にも、
- 患者さんや看護師さんとの関わりで悩んでいるとき
- 進路で悩んでいるとき
- 友人関係や親子関係で悩んでいるとき
- 生き方に悩んでいるとき
- 成績が伸びないとき
などなど。学生が悩んでいそうなとき。
家族や友人以外からの教員や、大人の助言が必要そうだと感じた場合には、
お昼休みか放課後、30分ぐらいお話、しない?
最近、授業に集中できていないよね?
と、私から学生に声をかけます。
面談の必要がなければ、それはそれでOKです。
いつでも、お話、聴くからね。と、
ウエルカムな姿勢を示しておくことも大切だと思っています。
面談の機会を設けても、学生から何も話してくれない場合もあります。
その時は、私自身の今までの人生や、何を考えて教員をしているのか、語るようにしています。
何を語るのかは、学生の状況やその場の雰囲気で自由に決めています。
- なぜ教員になろうと思ったのか。
- 忘れられない患者さんとの思い出
- 看護師という仕事と家庭生活とのバランス
- 効果的な学習の仕方、ワンポイントレッスン
- 私自身の老後について考えていること
- 子ども自慢
- 看護師をしていて衝撃を受けた事
- 看護の失敗談
- 生きていくうえで大切にしている考え方
などなど。
私の話に共感する部分があれば、それをきっかけに話し出すことが多々あります。
教員も一人の人間です。人生の先輩としても、寄り添ってみてもいいのかな、と思っています。
優秀な人を見ると、自分も「こうあらねばならない」と思ってしまうかもしれません。
両親のような生き方をしなければいけないと思っているかもしれません。
でも、様々な考え方、ものの見方、価値観、人生があり、人それぞれ生き方は自由です。
その多様なモノに触れ、自分で考え、自分が納得した道を選び、歩んでいくことが大事だと思うのです。
まとめ
自分から進んで看護学校に入学したのではないかもしれませんが、
学生が、
この学校に入学してよかった。
看護を学んで良かった。
と思えるためには、学生同士や教員と学生が、
講義や実習、学級活動などで、日々積極的に関わり合いを持てるよう工夫することが重要です。
特に、教員の体験をもとにした語りが、学生にささると感じています。
学生がコースアウトしたくなってから、対応するのではなく。
日頃から、
「看護って大変だけど、面白いよー」と、
すりこんでいくことも効果的かと思います。(笑)
学生の怪我が化膿してしまう前に、
擦り傷の段階で、素早い処置をしたいですね。
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